ハイキュー!!
生徒会
「ちゃん、俺と付き合ってください」
差し出された部活予算申告書を受け取ろうとすると、目の前の男がそう言った。
掴むはずだった紙も微妙に引かれて掴めないでいた。
「は?」
「だから彼女になって」
「予算の申告は受け付けてるけど、交際の申込は拒否します」
「なんで!?」
「及川の事をそういう目で見てないから」
「じゃあ、今見て」
バンと勢いよく私の机に両手を付き、身体を乗り出してくる。
10センチと離れていない距離は心臓に悪い。
「見ろと言われてもねぇ」
「どう?」
「いや、無理だし」
「なんで!?」
「好きな人がいるんで」
「誰!?」
「いや、言わないし」
「俺が好きだって言ってるのに」
「言われてないし」
「今言ったじゃん」
「え?今のが告白?」
「そう!」
「ショボっ!!!!」
「お試しで良いから付き合ってください」
「いや、だから好きな人がいるんで」
すると及川君は生徒会室の出入り口に歩いて行った。
そしてドアの前に立ち、上半身だけこちらを向いて私を指差した。
「ぜーーーったい彼女になって貰うから!!!!」
それだけ言って出て行った。
「・・・・・・え?書類は?」
彼の勢いに押されてしまった。
と言うか、今の何?頭の中が真っ白なんだけど!!
「凄い告白でしたね~」
「あの及川さんの好きな人が、先輩・・・」
生徒会室にいた後輩二人がいたっ!!
忘れてた!!!!
「で、先輩の好きな人って誰なんですか?」
「あの及川先輩振ってまで・・・誰ですか?」
「言わないわよ?」
「それにしても書類・・・持っていっちゃいましたね」
「ほんと、何しに来たんだか・・・あ、告白か」
「きゃーーー!!!」
と、盛り上がる後輩の言葉は霞んでいく。
あの及川が?私を好き??
いやいやいや、まさかね。
あの及川だし。
何かの罰ゲームか何かだろう。
私の中で彼の告白は風化していった。
「あーーーちゃん!俺に会いに来てくれたんだー?」
バレー部が活動している体育館に入ると、及川がすぐに気が付いてくれた。
そして先生たちがいる所まで歩いて行くと、彼もそこに来た。
「部活の申請書類受取りにきました」
「なんだ、及川。まだ出してなかったのか?すぐに出せ」
「部室にあります。一緒に行ってくれる?ちゃん」
「・・・・・・分かった」
そして鼻歌を歌いながら、軽やかに歩く及川の後に続いた。
「俺のロッカー、一番奥だから」
「・・・・・・失礼します」
男子と二人で個室に入るのは迷ったが、此処は神聖な部室。
それに告白も彼の罰ゲームと決め込んでいた 私は浅はかにも奥までついて行った。
一番奥の一番端にあるロッカーを開ける及川。
中を見るのは憚られるので彼に背を向ける形を取った。
「え?」
その瞬間腕を掴まれて引かれ、身体がロッカーに押し付けられる。
そして目の前には及川君が。
両手を張り付けの様に押し付けられ、足の間には彼の膝が入り込んで来た。
「なっ!?」
文句を言おうと顔を上げた瞬間、彼のドアップが目の前にあった。
細められた目は試合の時の彼みたいで何も言えなくなった。
「告白した男に対して警戒心なさすぎじゃない?」
「・・・・・・」
「ああ、それとも、こういう事に期待してた・・・とか?」
閉じられた眼、近付く顔。唇の端に感じた温もり。
「眼、閉じてもくれないんだ?」
「なにを・・・」
「だから、好きだって言ったじゃん」
「冗談でしょ」
「冗談じゃないけど?」
「いい加減にして」
腕に力を入れても動かない。
体を動かそうとしたら、彼の体が密着した。
「なっ!!!」
「へぇ・・・ちゃんて着痩せするんだ?」
「何・・・考えて」
「そりゃあ、この密着した体の制服の下・・・かな」
「バカな事をいわないで」
「バカでも良いかな」
顔を背けたら、首筋に吸い付かれた。
「ちょっと!」
「綺麗についたよ、キスマーク」
「何考えて」
「ちゃんの事だけど?」
「・・・・・・何で急に」
「俺が好きなの気付いてなかったの?」
「そんな冗談」
「まあ、気付いてたらこんな事態になってないか」
「だから何を」
「この間、昼休みにから告白されてたよね?」
「え?」
「その場所、どこかわかる?」
「・・・・・・あ」
「そう、この壁の向こう側。丁度昼に打ち合わせでここにいたんだよね~俺」
「・・・・・・」
「今までだったら断ってるのに何で今回は考えさせてだったの?」
「・・・・・・」
「すっげー焦ったんだけど。春高バレー終わるまで動く気無かったからさ」
「・・・・・・」
「それにちゃんって、俺の事好きじゃん?」
「!!?」
「俺の事好きなのに何で他の男と付き合おうとしてんの?」
「それはっ」
「ブッブー。時間切れ」
そして重なる唇。
手の束縛が解放され、彼の腕が私を抱きしめる。
私は思わず彼のTシャツを掴んだ。
「あーーーー何でそんなに可愛いのかな!!!」
キスから解放されても腕からは解放されない。
更に力がこもって抱きしめられる。
彼の肩口に額を当てたが当初の目的を思いだして顔を上げると岩泉君がいた。
「あ」
「え?」
私の声で振り向こうとした瞬間、岩泉君が投げたボールが及川君の頬に当たる。
私は横に避けると、そのまま及川君がロッカーに激突してゴンという音を立てた。
「だ、大丈夫!?」
「大丈夫だ、慣れてる。書類はこれか?」
倒れた及川君の横に立った岩泉君が彼のロッカーから書類を取ってくれる。
そして私が確認して頷くと「行くぞ」と及川君を引きずっていった。
「い、一緒にかえろーーーー」
引きずられながらも大きな声でそう言った彼。
私は笑って「部活頑張って」と言った。
「頑張って・・・だって。聞いた?岩ちゃん」
「やっと告白出来たのか。ヘタレクソ川」
「ヘタレじゃないしー」
「UFOキャッチャーで取ったクマに『』って名付けてキスしてたの言ったか?」
「言ってないし!!!!」
「じゃあ、俺が言ってやる」
「岩ちゃん、俺に恨みでもある!?」
「アリアリだろ、クズ川」
「だーーーもうしません!!!!」
「何をだ?」
「クマにチュー?」
「クマの四肢を引き裂いてやる!!」
「ぎゃーーー!!!!!」
2017.03.23