ハイキュー!!
煙草
「けいしんちゃん、けいしんちゃん」
「はー・・・い」
昼間、店番をしてるとこの呼び方で呼ばれる事が多い。
だから何も意識せずに振り返って驚いた。
「やっほー。本当にいた」
そこには俺を「ちゃん」付けで呼ぶ婆さん連中じゃなく、若い(?)女がいたからだ。
ん?でも毎日の様に高校生を見てるよな?
「ってことは、若くはねえな」
「え?なに?セクハラ?ケンカ売ってる?」
「つーか、お前、何してんだ?」
「ん?『けいしんちゃん』に会いに?と言うか、私が誰だか分かってんの」
「そこまでボケてねえ!」
「そう?」
冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して小銭と一緒にテーブルに置く。
そして椅子に腰かけてプルトップをスラっとした指が開けていく。
一口コーヒーを煽り、テーブルに片腕を伸ばして突っ伏した。
「良くも悪くもここは変わらないねぇ・・・」
「変わる事だけが全てじゃないだろ」
「そうだけどね~」
「本当に何してるんだ?お前」
「ダラダラ」
答える気が無いらしい彼女をと言う。
彼女は同級生であり、所謂元カノってヤツだ。
「けいしんちゃんけいしんちゃん、お味噌ちょうだい」
するといつもの婆ちゃんの一人が店に入って来た。
俺は味噌を取って婆ちゃんに近付き、会計をする。
「まいど~。重いから気を付けて帰ってくれよ~」
店の外まで見送り、再び店内に戻る。
すると先ほどの体勢のまま、彼女が俺を見ていた。
「本当に呼ばれてるんだねー」
「確認しに来たんだろ?」
「まあね。島田君に聞いてたからさ」
「島田と会ったのか」
「うん、お母さんにお使い頼まれて島田マートに」
「その割に買い物袋持ってねえな」
「一度帰ったもん」
「ふーん」
いつもの場所に座り、ポケットから煙草を取り出す。
1本を咥え、ライターで火を点けて煙を吐き出す。
「背、伸びないよ?」
「そんな年じゃねえよ」
「キスする時に嫌がられない?」
「ぶはっ!!!!!」
思わず吸った煙にむせる。
彼女から顔を背け、ゴホゴホと咳をする。
「おまっ!?」
「はぁ・・・・・・」
もう煙草の事はいいのか、溜息をついて反対を向く。
本当にコイツ・・・何しに来たんだ?
突っ伏してる彼女を見る。
真黒だった髪は茶髪になり(人の事言えねえけど)、指先は長めの爪に綺麗なネイル。
校則があったにせよ、あの頃とは別人だな。
「何で帰って来たんだ?」
「ん?見合いしに」
「すんのか?」
「・・・・・・迷ってる」
高校を卒業する時まで、コイツと付き合っていた。
『田舎で人生終えたくない!都会で自分を出したい!』
そう言って宮城を飛び出して東京へ行ったのは彼女だった。
風の噂では東京の大学を出て、企業に就職。
それなりの成績で、それなりの出世をしてると聞いていた。
そんな彼女が戻ってるという事は・・・
「・・・・・・戻ってくる気になったのか?」
そう言うと彼女がガバっと上体を起こして顔を真っ赤にしながら口元を隠す。
その様子からすると・・・なるほどな。
俺は新しい煙草に火を点け、頬杖をついて彼女を見る。
「そのニヤニヤした顔、やめなよ。モテないよ」
「うるせぇ。がいるから問題ねえだろ」
「ちょっ!?」
「戻ってオレの嫁になる覚悟が出来たから会いに来たんだろ?」
「はぁ?」
「『疲れたら戻って来てオレの嫁になれば良いだろ』って言って送り出したしな」
「・・・・・・」
「で、帰って来たんだろ?」
「うー・・・・・・」
唸って彼女は机に両手を組んでそこに顔を埋めた。
手を伸ばして髪を撫でる。
煙草を灰皿に押し付けていると彼女が俺を見た。
テーブルに手をついて彼女に触れるだけのキスをする。
嫌がる素振りが無いので髪を撫でるのを止めて頭を固定してキスを深くする。
「煙草の味がする・・・」
「そうだな」
もう一度キスをしようとしたら「けいしんちゃんけいしんちゃん」と呼ばれたので慌てて店先に足を向けた。
2017/04/04