ハイキュー!!

及川徹

涙の跡さえ、愛しい

高校を出て地方の大学に進み、神奈川で就職して早5年。

周りの結婚話やコイバナにも飽きてきて、精神的に疲れてるなと感じて来た。

大学は楽しかったし、仕事も面白いしで恋愛してる暇なんて無かった。

疲れ果てた肉体&精神で新しい恋をする気にもならず、それなら!とお盆休みをずらして里帰り。

仙台の七夕祭りに合わせてみる。

関東で七夕と言えば7月7日というのは知ってたけど、なんというか物足りない七夕で。

キャリーバックをガラガラしながら降り立った仙台駅は、すでに七夕飾りがあって「これこれ!」と見ただけでテンションが上がった。

ハイテンションのまま実家に行けば共働きの為に誰もおらず、荷物を置くだけ置いて母校に向かう。

【青葉城西高校】

夏休みなのもあるだろうけど門は閉まっていて、セキュリティからか中には入れない。

横にあるインターホンを鳴らすと『はい、どちらさま?』と低い声が聞こえた。

「私は卒業生で見学に来たのですが」

『卒業した年度と名前を教えてください』

「〇〇年 です」

?今開けるから入っていいぞ。ついでに職員室に来てくれ』

「?はい」

言われた通り扉のカギが開いた音がして中に足を踏み入れる。

そして校舎に足を踏み入れると来客用の下駄箱に向かう。

―――あの頃と変わってない。

安堵すると同時に「」と名前を呼ばれて振り向くと、懐かしい顔があった。

「え?松川?」

「久しぶりだな。というか、化粧って凄いな」

「うっさい!松川だって老けたじゃん!」

松川は同級生で、今は教師となって戻ったらしい。

そしてバレー部のコーチとして働いてるんだとか。

夜になったら飲みに行く約束をして彼と別れ、私は校内を見て回る。

教室に生徒はほとんどいないけど、部活動してる生徒はいるようだ。

高校一年生の時、私は及川徹と付き合っていた。

初めての彼氏で、ファーストキスの相手で初めての人だった。

徹はちゃんと「好きだ」とか感情を口にしてくれる人だったし、モテてはいたけど浮気はしなかった。

本当に完璧な彼氏……だったと思う。

けれど三年になった時、ものすごく不安になった。

私はこのまま徹と付き合って、結婚して、子供を産んで老いていくのかと。

その時に物凄く狭い世界観に恐怖を覚えた。

そして徹に別れを切り出した。

徹は納得してなかったけど「進路」って言葉は学生には大きくて重い意味を与えてたんだと思う。

あの別れ話の後から徹とは会ってないし喋ってもいない。

「お?ちゃんと来たな」

「約束したじゃん」

「お前、男バレ避けてただろうが」

「うっ・・・」

居酒屋に着けば既に松川がいて、座敷に座ってスマホをいじっていた。

向かい側に腰を下ろし、メニューに目を通す。

直ぐにおしぼりを持って店員が来て、注文する。

程なくして並べられる食べ物と飲み物。

「「乾杯」」とグラスを合わせて喉を潤した。

互いの近況等を話していると「バン!!!!」と大きな音がして振り向くと、更に「ドン!!」と音がした。

「おー…今まででの中で最速だな」

「はぁはぁはぁ・・・っ・・・・・・」

、及川に飲み物」

「え?あ・・・はい」

子上がりに手をついてハアハアと肩で息をしてる徹に飲んでいたビールを差し出す。

すると彼はそれを一気に煽った。

その間に松川は立ち上がって開けっぱなしのドアを閉めに行き、店主に「すいません」と謝っていた。

そしてすぐドアが開いて、今度は岩泉が入ってきた。

「何だ、及川、もう来てたのか。ん?か?久しぶりだな」

「ああ、うん、久しぶり」

「ちょっと!みんな和やかすぎじゃない!?」

「俺らは何のわだかまりも無いからな」

「単なる同級生の会話だろ」

「そうだよね!わがかまりがあるのは俺だけだよね!ああ、もう!行くよ!!!」

と腕を引かれて体が傾くけど、徹が抱きとめてくれる。

そしてヒールを履かされて店を出た。

しばらくして掴まれてた腕が解放され、手をつなぐ形になって無言で歩き続ける。

そして七夕飾りの凄い中央通りまで来た。

通りの中央で止まり、彼の腕が私に巻き付いた。

「ずっと……待ってたのに」

「え?」

「何で連絡寄こさないのさ」

「だって、別れたし」

「別れてない。ちょっと距離作っただけだし」

「いや……」

「好きだ……。が好きで好きでオッサンになった今でも好きで、まっつんからメール来て会いたくて飛んできちゃうくらい好きなの!」

「とおる……」

「なのには暢気にまっつんと酒飲んでるしぃ…ぐすっ」

「え?徹ってば泣いてるの?」

「だいでだい・・・(泣いてない)」

そういって抱きしめる腕に力を込められた。

「徹って案外泣き虫だよね」

「ぢがう、感情表現が豊かなだげ…ぐすっ。で、どうなのさ」

「ん?何が?」

「一世一代の告白の返事!」

「ああ、それ。涙に鼻水垂らしてる徹の事を好きな女の子なんて私だけじゃないかな?」

……」

「あ、でも、キスは顔洗ってからにしてね」

「えーーー!!!?」

「汚いじゃん!」

「なら早く帰ろう」

「どこに?」

「あ……」

どうやら徹も実家暮らしらしい。

だからとりあえず手を繋いで彼の車を取りに行った。


2018/08/14