ハイキュー!!

及川徹

だからこの夜は私だけに下さい

注意:お酒は20歳になってから&悲恋(ぽい)


高校三年間同じクラスだった及川徹に片思いしていた。

そんな彼に先月から可愛い年下の彼女が。

最後の大会の後に告白され、付き合い始めたらしい。

私と及川はどちらかと言えば悪友の類。

最後の数か月は地獄の様だった。

登校日が減って顔を合わせなくて済んだが、ラインや電話が良くあった。

内容は岩泉やバレーの事だけでなく、彼女の事も。

そして卒業式翌日、ヤツに呼び出された。

呼び出されたのは彼の部屋で、何度か遊びに来た事もあった。

どうやら両親が出掛けてしまい、夕飯を作ってくれと。

人が台所で料理をしていると、周りをウロウロしながら喋り続けている。

どうやら彼女と大喧嘩したらしい。

及川は東北の有名大学に進学予定で、寮生活になる。

あれこれヤキモチを焼かせようとした結果、彼女がキレたらしい。

そこから売り言葉に買い言葉、大喧嘩になったんだとか。

テーブルに料理を並べ、食事を始める。

「あんたが悪いに決まってるデショ」

「わかってるよぉ~。あぁーもうヤケ酒だ!オヤジのビール貰っちゃおう!」

冷蔵庫から缶ビールを取り出しプルトップを開ける。

プシュッと言う音の後、冷蔵庫の前で腰に手を当て一気飲みを始めた。

「う~~~何が美味いんだろ、コレ」

再びテーブルに戻ってきて、料理を摘まみだす。

視線をダイエット特集の番組に向けていると、ガタっと音がする。

及川を見ると机に突っ伏していた。

「ちょっと及川!」

「んー?」

「寝るなら部屋行きな!」

「だって~~~あるけな~い」

ニヤニヤっと笑って語尾にハートマークが付きそうな言い方。

「部屋~連れてって~~~」

「・・・・・・はぁ」

大きな溜息をつき、彼の横へ移動する。

彼の腕を自分に回し、支える様にして立ち上がらせる。

既に風呂を済ませているのか制汗剤なのか、良い匂いがする。

回されたがっちりした腕、胸筋・・・・・・私の物では無いカレ。

なんとか必死こいて部屋へ入る。

ベッドに横にならせようとして一緒に倒れこんだ。

「ん~~~魅」

ぎゅっと抱きしめてくる腕。

「ちょっ!私は魅ちゃんじゃないし」

「えー・・・」

なんとか腕から逃れるも、今度は腕を掴まれた。

「行っちゃヤダー」

「・・・・・・」

この男・・・たちが悪い。悪すぎる!!!

私は及川の顔の横に両手をつく。

目を閉じた彼の唇に自分のソレを重ね合わせる。

それだけで離れるつもりだったのに、するっと彼の腕が巻き付いて来た。

酔っぱらっていても力強く、体が密着する。

入り込んでくる熱い彼の舌。

恐る恐る自分の舌を差し出せば絡め取られ、頭の中はショート寸前。

クルっと体勢を入れ替えられ、圧し掛かってくる彼の重み。

耳に、首筋に、鎖骨に、順番にキスをされながら服が剥がされゆく。

彼が入り込んでくる瞬間、一度だけ視線が合った。

「とおる・・・」

・・・」

甘ったるい声で呼ばれた自分の名前。

私の上で快楽を追い求める彼を、今だけ私にください。

今だけ彼女を、全てを忘れて私だけを求めて欲しい。

今この瞬間だけ、独占していたい。

私の頬を伝う水分は、彼の汗なのか私の涙なのか・・・

今はどっちでも良い。

彼の全てを感じて、私の全てを支配して欲しいから・・・




彼は欲望を吐き出してすぐ、眠ってしまった。

ヘッドボードに置かれた彼の携帯を手に取る。

スワイプさせて画面を立ち上げ、電話帳を引っ張り出す。

そして『』を削除した。

メール画面を起動して、自分のアドレスをチョイスして削除。

ラインのアカウントもブロック。

携帯を元の場所に置き、彼を見る。

スウスウと眠る彼は子供の様だ。

横を向いて眠る彼の頬にキスをしようかと思ったが、起きてしまっては困る。

頬に伝わる涙をぬぐい、部屋のドアをそっと開けた。

キッチンで料理をラップして、冷蔵庫に入れる。

使った食器を綺麗に洗い、及川家を出た。

真っ暗な夜道を照らす月だけが私を見ている。

神様は私をバカだと思うのだろうか?

自分で分かっているから見逃してほしい。

自宅のドアを静かにあけ、部屋に入りベッドに倒れこむ。

と言ってもこの部屋にはもう、それしか残っていない。

誰にも言っていないが、明日の早朝、私は東京に向かう。

彼への想いは全て此処に置いて行こう。

今度このベッドに眠る時は、彼を過去に出来た時だ。

だから今だけ・・・彼の温もりを思い出し、目を閉じた。



2016/08/02