ハイキュー!!

澤村大地

堕天使の沈黙

高校の終わりから4年付き合った彼女にフラれた。

理由は良く分からないけど、多分、東京に出たいと言ってた彼女と地元に残る俺との意見の食い違いだと思う。

スガ曰く「田舎舐めんな!そんなの大地からフっちゃえばいいんだよ!」と飲み会が開催されるまでに。

おかげで落ち込む暇もなく酒に酔う事が出来た。

と言ってもそれは店を出るまでの事。

店を出て仲間が一人、また一人と離れていくと押し寄せてくる後悔。

地方公務員じゃなくて東京に行けば良かったのか?

けれど彼女の言葉一つで進路を変えるなんて考えられない。

来るべき別れだったと受け止めるしかないんだろうな……

「大丈夫?」

「あー……ダメかも」

そこからの記憶はあやふやで。

気が付いたら見知らぬ部屋のベッドの上にいた。

「あ、あれ?」

上体を起こして頭をフル回転させる。

見た事の無い部屋で、触り心地の良いリネン。

頭を回転させるとソファの上に掛かってる上着を着ようとしてるがいた。

?」

「帰って味噌汁飲んだ方が良いよ」

彼女はクスリと笑って部屋を出て行った。

「え?あ……」

彼女の後を追おうとしたが、自分が真っ裸な事に気付く。

現状を把握しようとヘッドボードを見ると、ラブホテル特有のコンドームが見当たらない。

恐る恐るゴミ箱を見れば残骸の山になっていた。

とりあえず洋服を来て部屋を出るけど、会計まで済まされていた。

「嘘だろ……」

とにかく家に一度戻ってシャワーを済ませて大学へ向かった。



とは大学で一緒になり、同じ講義を取ってる連中と一緒にいるようになったグループにいる。

大人しい性格なのか、自己主張があまりない。

気付けばそこにいて、一緒にいて苦にならない存在だ。

かと言って自分が無いかと言えば、そうでもない。

嫌な事は嫌と言える人物だ。

なんだろう。

『男女の友情は成立する』を体現できる人物とでも言えばいいのか?

長く付き合っていける人だと思ってた。

それなのに……酔った勢いとは言え、関係を持ってしまうなんて。

(彼女に会ってなんて言えばいいんだ)

「あ、澤村じゃん!二日酔いしてない?」

タイミングが良いのか悪いのか、と同じく仲間内のがいた。

そしてがニヤニヤしながら言うのに対して、俺は苦笑いしか出来ない。

「あー・・・結構ヤバイ」

「酒臭いよ」

「だよな~」

は今までと変わらず話しかけて来た。

ここはもいるし、俺も普段通りで返す。

けれどの首筋に巻かれてるスカーフから覗く赤い印は昨日の事が現実だった事を示していた。





あれから一ヶ月以上経った。

との関係は変わらない。

話をしたくて声を掛けようとするけど、彼女が一人でいる事が無いから話題に出せないでいた。

もやもやとしたまま廊下を歩いているとその先にが誰かと会話していて、風に乗って気になる単語が聞こえて来た。

「……が、吐いちゃって……」

「………妊娠とか……」

に……だから……」

?妊娠?

がどうかしたのか!?」

「澤村?おはよう」

「おはよう、って、だからは?」

「え?ああ、保健室に……って、ちょっと!」

が何か言いかけていたが、俺は保健室に向かって走り出した。



保管室に着く直前に白衣を着た保健医らしき人物に「廊下を走るな」と言われ早歩きで保健室へ向かう。

ドアをノックして開けると、コップを手にしたが俺を見た。

「……何してるの?」

「何って……吐いたって聞いて」

「ちょっと生理痛が重くて……。ああ、なるほど」

「?」

「私が妊娠してるんじゃないかって心配になったんだ」

「……いや」

「安心して。ちゃんと避妊してたから」

「………」

「だから心配しないで。私はちょっと横になるから」

は血の気の引いた顔を背け、だるそうに椅子から立ち上がった。

俺は彼女の傍まで行き、小さな体を抱き上げた。

「ちょっ!」

「暴れると落ちるぞ」

「歩けるってば!」

文句を言う彼女を無視してベッドまで行き、その体を下ろす。

足元に畳まれた薄っぺらい布団を広げて横になる様に促すと、はしぶしぶと体を横たえて俺に背を向けた。

その体に布団をかけ、ベッドの横にあった丸椅子に腰かける。

「もう行って。講義始まる」

「なあ」

「……」

「何であの日……」

「澤村がベロベロでほっとけなかっただけ」

「……」

「………」

「フラれてすぐ他の女に惚れる男って、やっぱ最低だよな」

「……そうかもね」

はそういう男に惚れられたらどう思う?」

「知らない」

「じゃあ、考えて」

「わけわかんないんだけど」

「だからの事を好きになったって言ってる」

「はぁ!?」

は勢いよく起き上がって俺を見た。

その顔は呆気にとられた顔ってヤツで。

「……」

「……」

「返事、聞きたいんだけど」

「返事って」

「だから好きだって言ってんの」

「………」

?」

「…………」

「おーい?」

何度呼び掛けても放心状態で。

だから力業に出る。

の肩を押して横たわらせ、そこに覆いかぶさる。

その瞬間にの顔が赤くなった。

そして薄っすら涙を浮かべた顔がフラッシュバックする。

「ちょっ!」

「好きだ」

「なっ…ずるい」

「ずるくてもいい」

ゆっくりと顔を近づけていく。

それでもは顔を背ける事は無かった。

だから更に顔を近づけて柔らかな唇に自分のそれを重ね合わせる。

その瞬間にの小さな掌が俺の肩に添えられたのと同時に、キスを深くした。



2020/11/12