ハイキュー!!

岩泉一

Aventure~一夜限りの恋~

あの時、エースである俺がきっちり決める事が出来ていたら…



鳥野との試合が終わり、道具を置きに学校に戻る。

三年である自分達は落ち込んでいる暇はなく、即受験体制となるのだ。

けれど頭の切り替えは出来ても感情はついて来ないものだ。

後輩と戯れる及川に黙って教室に向かった。

休みの日の教室など、誰もいないだろうと思ってた。

クラスのドアを開ければ当たり前だが暖房も入っていないし電気も点いていない。

真冬の冷たさが身を引き締める。

「さみぃな…」

自分の席に座り机の上に足を乗せ、腕を組んで目を閉じて試合を振り返る。

超ロングセットアップ、スパイクサーブ、どれをとっても及川は凄かった。

なら負けた理由はエースである俺 が不甲斐 ないせい。

及川には全国の大学から声も掛かっているが、俺には生憎と数少ない大学からだけだった。

勉強が得意じゃない以上、その極僅かで選ぶのが妥当だろう。

けれど俺のバレーが、及川以外のセットアップで通用するのだろうか?

「ちょっと岩泉!」

いきなり名前を呼ばれて目を開けると、同じクラスのがいた。

と言うかドアップだ。

「うわっ!?」

「ちょっ!?」

目を開けて近い距離に彼女の顔があって離れようとしたけどバランスを崩してしまった。

そんな俺を助けようと手を伸ばしただが、俺の勢いが勝って一緒にバランスを崩してしまう。

「いっ…てぇ……」

「いたたた…ごめん、岩泉」

「いや…」

そこで俺は固まった。

背中は見事に床の上だけど、俺の上にはが密着してるからだ。

そしてが腕を付いて俺を見下ろす。

「怪我、してない?」

「い、いや…してない」

「ほんとに?」

「な、なんで…」

「泣いてるから」

の掌がそっと俺の頬に添えられ、ゆっくりと親指が動いたのが分かった。

その行為が俺の涙を拭ったのだと。

「試合…負けちゃったね」

「っ!!」

「格好良かったよ、岩泉」

「及川がだろ?」

「私は岩泉の応援に行ったから」

そう言いながら彼女の顔が近付いてきて、唇がゆっくり重なった。

柔らかくて温かい唇が、俺の中にゆっくり広がる。

の首を支えながら体制を入れ替えて彼女を見下ろす。

瞳に溜まった涙、床に広がる長い髪。

さっき自分がされた様に彼女の頬を掌で包む。

すると猫が摺り寄る様な仕草をする彼女。

頭の中で何かが「パチン」と弾けた気がした。

それから唇を貪り、柔らかな肌を撫で上げ、彼女と1つになる。

「いたっ…」

彼女の言葉が耳元でして俺は正気に戻る。

「ごめん!」

の初めてをこんな形で奪ってしまった。

慌てて体を離そうとするけど、彼女の腕が俺の首に巻き付く。

「続けて」

「でも」

「岩泉だから良いの。このままシて」

重なる唇は麻薬の様に甘く俺の中に広がる。

少しでも彼女が気持ちよくなる様にしながらも腰を打ち付ける。

「はっ…あんっ…」

甘い声と一緒にナカが締め付けられ、彼女を気遣う余裕が無くなった。

彼女の足を抱え込み、キスで唇を塞いで腰を打ち付けた。



翌日。

朝練が無い俺は、ゆっくりした時間に学校へ向かう。

教室に入る時間は、朝練の時と変わらない時間だった。

ドアを開けると温かい空気が体を包みこんだ。

何となく視線がを捉える。

彼女はすでに登校していて、隣のヤツと話をしていた。

「……」

なんとなく面白くない。

別に付き合ってる訳じゃないんだし、嫉妬するのは間違っている。

けれどが俺を見て微笑んだ瞬間、黒いモノが消えた気がした。


2017.08.16