ハイキュー!!

岩泉一

不意打ちのキス

ブーッブーッ・・・

ポケットの中でスマホが振動する。

「電話?出て良いよ」

「ん?ああ……いや、メッセージだから」

「また例のカノジョか~?」

人の携帯を覗き込んでくる隣の同僚。

画面を暗くす前に「連絡してって書いてあるぞ?」内容を読み上げられた。

「てか、前の飲み会でもそうだったよな?」

「岩泉君のカノジョって束縛系なんだ?」

目の前に座る同期のが、ハイボールを持つ指を俺に向けてニヤっと笑った。

「はぁ……オンナってわかんねぇ」

思わず口をついて出たのは本音だった。

彼女と付き合い初めて1年。

出会ったのは及川に騙されて連れていかれた合コン。

お淑やかで男を立てる感じの柔らかな印象。

こっそりと渡された名刺には女らしい字で携帯番号とメアドが書かれていた。

合コンの後に「出会いが無かった」とヤサグレてる及川と飲み直して俺の部屋に転がり込んで来た及川が名刺を見つけてメールをしたのが始まり。

彼女はいなかったし、悪い印象も無かったからそのまま付き合い始めた。

半年ぐらい経ったら、俺の年収を聞いて来たり、転勤があるのか、両親は同居を望んでるか等を聞いて来た。

きっと結婚を意識してるんだろうってのは分かったけど、俺自身彼女との結婚なんて考えてない。

かと言って別れ話をすれば面倒になるのは目に見えていたから放置してたけど……最近束縛が凄い。

誰といるの?何時に帰るの?帰らないなら連絡してと。

はオトコ出来たの?」

いつの間にか同期の会話は俺から彼女へ移っていた。

「出来るワケないじゃん!この間もフラれたし」

「まあ、だしな」

だからな」

「なにそれ!」

「女で好きなのがハイボールにモツ煮とかアウトだろ」

と盛り上がっているけど、は言われ慣れてるから気にもしないで「だよね」と笑っている。

は見た目は、まあ普通で、男の下らない下ネタも平気。

上司との飲み会でセクハラされそうになっても、やり返して笑いにしてしまう。

彼氏からも「女らしくない」と言われて別れに繋がるらしい。

最近は誰も覚えてないかもしれないが、同期として入社した頃を思いだした。

彼女は料理が得意なのを。

当時の男に「料理が得意なんだか主婦になれば良い」と言われて別れてたっけ。

女=結婚=家庭なのかと怒っていたのを覚えてる。

「それならと岩泉が付き合えば良いんじゃね?」

「「は?」」

「岩泉は別れる切欠が欲しくて、は男がいない。岩泉ならお前の事も理解してんじゃん?」

「そういえばの女らしくない事を責める発言しないよな、岩泉って」

「そういう問題か?」

「いやいやいや、飛躍しすぎじゃない?」

「そういえば営業の岸田課長、受付の嶺野さんと付き合ってるよな?」

「岸田課長って結婚してるだろ」

「え?不倫?」

と話題が逸れて行って思わずと二人で顔を見合わせて笑い、話に乗って行った。



駅で解散をし、帰る方向が同じとホームで電車を待つ。

するとまたポケットのスマホが振動した。

「愛されてるねぇ~」

「執着してるだけだろ」

俺は中を確認せずに溜息をつきながらポケットに戻す。

「電話しないの?」

「今はがいるし、家に帰る前に連絡するわ」

「ああ、岩泉って実家だっけ?」

「通えるのにわざわざ家賃だの払ってるの勿体無いしな」

そして電車がホームに滑り込んでくる。

電車に乗り込めば終電間際でも週末だからか、案外と人が多かった。

「こっち」

を出入り口付近に立たせ、ガードする様に立つ。

走り出した電車の揺れでと体が密着した。

「わりぃ」

体を離そうとすると、彼女の手が俺のジャケットの腰の辺りを掴んで距離を作る事が出来なかった。

何事かと彼女を見ようとしたけど顔が近付いて来た。

「私の部屋から電話すれば?」

驚いて顔を離して彼女を見る。

夜中で化粧はハゲてるだろうけど妖艶な笑みに何かを持っていかれた気がした。

俺は壁に手を付いて上半身を曲げて彼女の唇に自分のそれを重ねた。



2018/06/07