DAYS

加藤一彦

愛なんだ

ちょっと小洒落たレストランのビュッフェスタイルで、皿に取り分けた料理を食べながら懐かしい友人と談笑。


制服を着ていたのは10年も前だと信じられない程、お喋りに花が咲くのは、いつの時代も変わらないものだ。


さすがに話題は結婚や子育てになってしまったけど、話題は尽きないもの。


貸し切り時間の半分が過ぎる頃、出入口付近で歓声が上がる。


その中心には遅れて来たのは、砂山朝一だ。


彼は高校に入学した時から既に有名人で、学校にいる日も多くは無かった。


実を言えば、彼は私の初恋の人だったりもする。


3年で同じクラスになった時は、舞い上がったものだ。


それから席が隣になり、彼が休んでいる間のノートを取ったりもした。


柔らかな表情で「ありがとう」と言われるのが嬉しくてたまらなかったのだ。


「あ、!砂山くんが来るよ」


友達に言えれて顔を上げると、あの頃と変わらない優しい顔をした彼がいた。


「久しぶりだな」


「会うのは久しぶりだね。いつもテレビで見てるけど」


「俺も喋らないは見てたな、こっそりだけど」


「ん?」


「いや、何でもない。それより来てるぞ」


「え?誰が?」


「ロビーに行けば分かる」


「まさか…」


砂山くんがふっと笑い、出入口付近を見た。


私は手にしていた皿を置き、ロビーへ向かう。


すると待合人用のソファに腰を下ろしてスマホをいじっている人物が。


「一彦?」


「あー・・・バレたぁ」


照れくさそうに頭を掻く彼の傍に行き、隣に腰を下ろす。


「どうしたの?」


「んー…砂とは話したぁ?」


「一彦がいるのを教えてくれたのは砂山くんだし」


「他に何か言ってたぁ?」


「別に何も……。え?何かあるの?」


に会いたかっただけだぁ」


そういって私の手を取り、ぎゅっと恋人つなぎをする。


だから私も力を入れて握り返す。


「朝は一彦の方が早かったし……テレビ収録終ったの?」


「そう。だから砂と一緒にここまで来たけどぉ」


「あーーーーー!!!!加藤一彦!!!!?え?マジで!!!?」


トイレに出て来た男子が彼を見つけて大声を上げた。


その声に他の人たちもわらわらと出てくる。


思わず彼と顔を見合わせてしまう。


すると一彦はニヤリと笑って立ち上がり、あろうことか私をお姫様抱っこした。


「ちょっ!?」


の夫、加藤一彦ですぅ」


と、挨拶をした。


それから男子に誘われて一彦まで参加。


サッカーファンに取り囲まれることになる。








二次会には参加せず、一彦と二人で帰宅。


「ふぅ……」


ソファにカバンを置き、ストールを取ろうとしたら後ろから抱きしめられた。


「凄く綺麗だぁ」


「ありがとう」


「誰にも見せたくないぃ」


「独占欲ですか?」


の事ぉ見てるヤツラいたぁ」


「え?まさか」


「無自覚は困るぅ」


ザラっとした髭の感触が首筋にしたと思ったら、温かな唇が「チュッ」という音を立ててストールの無くなった肩へと移動していく。


「ちょっ…んっ……」


止めようとした瞬間、温かな舌が首筋へと移動していく。


その瞬間にゾワゾワしたものが背中を這いあがってくる。


「ちょっ…一彦!!」


「止まらないぃ」


間延びした回答とは裏腹にソファへと体が投げ出され、あっという間にドレスを脱がされた。


急にセクシャルなスイッチが入ったのか謎だけど体格差のある自分に止める術は無かった。








目が覚めると部屋の中は真っ暗だった。


背中には一彦の温もりがある。


会社員の自分とサッカー選手である彼とは生活リズムが違う。


だから結婚する時にベッドは分けたけど、一彦が自分のベッドで寝るのは私がいない時だけ。


私が先に寝てれば私のベッドに来るからだ。


巨体とシングルベッドで眠るのは無理があるし、疲れが抜けきれないからとベッドをくっつける様にした。


「起きたぁ?」


「ベッドに運んでくれてありがとう」


「うん…」


ソファで抱き合った後、お風呂に入ろうとしたら一彦まで入ってきて再び抱かれた所で記憶が無い。


「……」


体の向きを変え、彼に抱き着く。


ぎゅっと抱きしめられて目を閉じる。


「砂もぉ……が好きだったぁ」


「え?」


「おやすみぃ……」


顔を見たかったのに抱きしめる腕が緩まないから叶えられない。


砂山くんが?


好きだった??


あれこれ考えて嬉しい気持ちになる。


多分それを聞いて一彦はやきもちを妬いたのかもしれない。


一彦と出会ったのは音羽が負けた試合だった。


スタンドで出会い、彼に口説かれ、彼の誠意に心が動かされたのだ。


「一彦……愛してる」


確かに砂山くんが好きな時もあった。


けれど私に愛を教えてくれたのは一彦だ。


だから私も思いを伝えた……んだけど。


気が付けば私の背中はベッドと接触。


「え?」


「スイッチ押したのはだからぁ…。俺の愛を受け止めてねぇ」


そして再び、彼の愛を受け止める事になった。


2018/09/27