ダイヤのA
月の光
二人の間に甘い空気が流れる。
長くて深いキスをして、彼の大きな手がニットの中に入り込んで締まりのない脇腹を撫でられる。
「んんっ……ま、待って!」
「ん?どうした?」
「ごめん、やっぱりちょっと待って」
両腕に力をこめて私の上にいる俊平くんの肩を押して距離を作った。
「彼氏の家から逃げて来た!?」
「シーっ!!!!!声がデカい!もう遅い時間だから!!!!!」
彼氏である真田俊平とは大学のゼミの知り合い、いわゆる合コンの様なもので知り合った。
180を越える長身でイケメンなんて天は二物どころか三物も与えられてる彼に玉砕覚悟で告白。
彼女もいないしと言う事で交際スタート。
それから彼の部活を見に行ったり試合の応援にいったり、お互いの空き時間に会ったりしてきた。
時間の経過と共に手を繋いだり、キスをしたりしてきた。
そして彼の家に呼ばれて……その覚悟もしていった。
正直言って初めてじゃないし、それを俊平くんも知ってる。
と言っても片手で足りるくらいだけど。
いざ彼に押し倒されて彼に触れられたら……怖くなってしまった。
「怖い?エッチが?」
「いや、まあ…それもだけど」
「欲望丸出し?」
「それも違う……かな」
「ワケわかんないんだけど」
「うん、自分でも分かんない。けど、これで良いのかな?って」
「半年も付き合ってるのに真田君に不満でもあるの?」
「逆…かな。自分に自信が無いのかも。俊平くんって野球では有名人だし、ファンもいるし」
「あー追っかけとかいるんだっけ?」
「うん。それに俊平くんがどう思ってるのか知らないし」
「え?好きとか言われてないの?」
「………うん」
「そっか…時間置くのもいいかもね。トイレ行ってくる」
「あ、うん」
がトイレに行ったので、ふとスマホを手にする。
けれど何をしても真っ暗で、電源ボタンを長押しすると画面が明るくなった。
それと同時に動き出したアプリが、あれこれと通知を知らせてくる。
「うわっ!」
「どうし……うわっ!電話にラインに…これメール?久しぶりにみたな」
「なんだ……え?」
通知の1つをタップすると電話の履歴で俊平くんの名前だらけだった。
次にラインをタップすると『どこにいる?』『ごめん』『電話に出て』と言った一言だらけのメッセージが。
「心配されてんじゃん」
「……うん」
「電話しな、今すぐ」
「うん」
はキッチンに向かって何か飲み物を作り出した。
だから私は俊平くんに電話を掛ける。
『もしもし?…っ……いまどこにいんの?』
「え、あ、ごめんなさい」
『はぁ…はぁっ……いいから、どこ?』
「と、友達」
『……場所っ…行って、迎えに行く……』
「でも、もう遅い時間だし」
『このままだと何も解決しないで…逃げられそうだから迎えに行く』
駅で待ち合わせしようとしたら夜道が危ないからと却下され、結局の家まで迎えに来た。
には「ごめん、連絡する」と伝えて家を出た。
二人並んで公園へ。
「1つだけ先に確認させてくんない?俺の事嫌いになった?」
「ちがっ!」
「じゃあ、手、繋いで良い?」
「あ……うん」
「距離あるけど、とりあえず俺ん家まで行こう」
そしていつもとは違う、指を絡める恋人つなぎをして歩き出した。
今まで手を繋いだ事はあっても、こういう繋ぎ方はしなかった。
嬉しいけど何だか恥ずかしくて……手、大きいな……なんとなく自分の手に力が入る。
すると俊平君の手に力が入って手が密着した。
密着した手から、自分の緊張も、羞恥心も、彼への想いも全て伝わってる様な気がして恥ずかしい。
「頼むから、夜中に出ていくのは無しな」
「え?」
「電話も出ねぇし、マジで心配したから」
私の少し前を歩く俊平くんは半袖のTシャツ姿で、背中の一部の色が変わってた。
首筋はうっすらと汗で光っている。
「ま、待って、俊平くん」
「ん?」
繋いだ手を離して鞄の中からストールを出して「ちょっと屈んでくれる?」とお願いして彼の肩へそれを掛ける。
その瞬間、彼の腕が私を抱きしめたので体が傾き彼の胸へ飛び込む形になった。
「……」
耳元で聞こえる越えに安堵が滲んでいた。
「心配かけてごめんなさい」
言葉と共に彼の背に手を添えた。
すると応えてくれるかの様に更に強く抱きしめられる。
「何で……出て行ったのか聞いても良い?」
「………なんか、恥ずかしくて」
「恥ずかしい?、まあ…」
「そういう意味も無いワケじゃないけど……私で良いのかなって」
「え?」
その瞬間に彼の温もりが無くなり、腕を捕まれて真っすぐに見つめられた。
「どういう意味?」
「えっと……俊平くんは野球が上手くて、人付き合いも凄いし、ファンとかもいるし…取り柄の無い自分が彼女面してて良いのかな…って」
最後の方は言ってて悲しくなって声のトーンが落ちてしまった。
一気に話したら俊平くんが長く息を吐き出したのが分かった。
「はさ、俺と違って落ち着いてて、地に足がついてるっつーか。そんなが見ててくれると嬉しいっつーか。頑張れるし格好良いって思って貰いたいしな」
「俊平くんが?」
「そりゃあ、惚れた女にはいいとこ見せたいってのが男の心理だろ?」
「……え?」
「何で驚くんだよ……あ……そっか、そうだよな」
すると俊平くんの手が離れ、口元でグーをして「あーうん」と1つ咳ばらいをした。
そして私の事を真っすぐ見る。
「好きだ。行動で表してたつもりだけど、やっぱ言葉にしないとダメだよな」
と口の端を少しあげ、ニヤッと笑った。
初めて聞いた彼からの告白に涙がこぼれた。
「泣くなって。これからはちゃんと言葉にするからさ」
「うん……私も俊平くんが好き」
「…」
甘く名前が呼ばれて顎に彼の長い指がかかり上を向かされる。
顔を上げると同時に目を閉じると、唇に温かな感触が。
「あー……早く帰ろう」
「あ、うん。シャワー浴びないと風邪ひいちゃうし」
「一緒に入る?」
「え?いや…それは……無理だけど……一緒には、寝る」
「……それって………マジ?」
「……うん」
「激アツ!それじゃあ、早く帰るか」
嬉しそうな俊平くんと手を繋ぎ、隣に並んで歩くのを月の光が照らしてくれる。
太陽の燦燦とした眩しさじゃない柔らかい光が、私達らしいなと思った。
2018/10/16