ダイヤのA
図書室
お姫様抱っこ事件は、授業中だった事が幸いして大事にはならなかった。
でも私の脳内は日々格闘している。
体操着越しに伝わる体温、
鍛えられた胸と腕、息遣い・・・・・・
やましい想像にしか繋がらないんだもん!!!!
あの胸に抱かれる彼女が羨ましいな・・・とか思ってしまう。
あれからまともに結城君の顔が見れません。
おかげで授業中は先生を見続け(話は聞いてない)、
休み時間は誰かの所へ行き、
席にいない様に努力し続けている。
放課後になり、塾までの中途半端な時間を図書室で過ごす。
サポーターで足首を固定しているとはいえ、歩き回るのは得策ではない。
そして静かで適温の図書室は最高だ!
窓側の日当りのいい奥の席を確保する事に成功。
眼下に広がるグラウンドでは、後輩たちが部活に勤しんでいる。
若者は元気だ。
1、2歳で大差ないなんて嘘だ。
絶対高校三年なんて体力が無い。
テーブルに先ほど配られた進路調査の紙を出す。
既に両親と話し合いは済んでいるので志望校も固まっている。
第一希望、第二希望を書き込み肘をテーブルに着く。
こうして見ていると部活に入れば良かったなと思う。
何かに 打ち込む3年間、きっとかけがえのない物になるのだろう。
そんな事を考えて、私は腕を枕代わりに机に突っ伏した。
「・・・・・、。こんな所で寝ていると風邪をひくぞ」
「・・・・・・!!!!!」
肩を叩かれた事で目が覚めた。
ばっと上半身を起こすと、目の前の席に結城君がいた。
「やっと起きたのか」
「・・・あれ?あ!!!!!」
現状把握が出来たのか出来ていないのか。
とりあえず腕時計を見ると塾の開始時間が過ぎていた。
荷物を鞄にしまい、急いで図書室を後にしようとすると「待て」と腕を掴まれた。
「足、まだ治っていないのに走ると悪化させるぞ」
「あ・・・・・・」
確かに今、重心が捻挫側にあって痛い。
なので重心をずらす、が、手が離れない。
「お、起こしてくれてありがとう」
「いや」
「あの・・・・・・手」
「手?」
「離して欲しいんだけど」
「それは俺が納得できる回答を得られたらな」
「回答?」
「何故俺を避ける?」
「いきなり核心!?」
「急いでいるんだろう?」
「あ・・・・・・・明日じゃダメかな」
「明日までこのままで困るのはだと思うが」
「えぇー!」
答えなかったら明日までこのまま!?
ムリムリムリ!!!!!!
「えっと・・・・・・この間の事で」
「この間?」
「私が怪我をした時の」
「ああ、抱き上げた事か」
「声が大きい!」
「ああ、悪い」
「えっと・・・・・・運んでくれて、ありがとう」
「いや、好きな子が困っていれば助けてやりたいものだからな」
「だから重かった・・・・・・え?今」
「助けてやりたい」
「じゃなくて」
「」
真剣な顔で私を見上げる結城君。
「好きだ。俺と付き合って欲しい」
夕陽に照らされて金色に近い瞳が私を射抜く。
恥ずかしくて目を閉じたまま頷く。
すっと耳の辺りから指が差し込まれ、ぐいっと引き寄せられる。
目を開けると彼の顔が近付いてくる。
再び目を閉じると、唇に彼の感触が重なった。
2016/05/27