ダイヤのA
図書委員
図書室に通うのは本が好きだからなんて決めつけられるのは困る。
私が通うのは大好きな人に会う為だから。
「あれ?また来てたのか。のわりに本、読んでねえな」
何冊かの本を抱えた男、同じクラスの真田俊平がそこにいた。
「本読みに来たんじゃないしね」
「ふーん・・・」
真田は適当に返事をし、持っていた本を棚に入れていく。
図書室の奥には円卓のテーブルセットが2つある。
授業では滅多に使われないここは、穴場的存在。
そこに毎日の様に陣取ってグラウンドを見ている。
グラウンドにはサッカー部と野球部がいて、私のお目当てはサッカー部の方だ。
「っ!!!!」
鞄を掴み、立ち上がる。
「あれ?帰んの?」
「うん、バイバイ」
私は急いでそこを後にする。
走らない程度に急いで靴を履き替えて校舎を出る。
グランドの脇を通り、さりげなさを装ってサッカー部を見る。
やはり見たくない光景が目に入って視線を逸らす。
後どのくらいすれば、心が痛まなくなるのだろうか。
翌日もまた、飽きずに図書室に来た。
そして奥の窓際をキープする。
まだ放課後になって間もないからか、グランドには生徒達が出てきてもいない。
ぼんやりしながら彼を待つ。
しばらくするとぞろぞろと生徒が出て来た。
それでもまだ肝心な人物が出てこない。
(上級生ぶってるもんな)
そして下級生が練習準備を整えた頃に、またぞろぞろと出てくる。
「あ・・・・・・」
その中に目的の人物を見つける。
グランドに出て来た彼は下級生に挨拶をされて軽く手を挙げる。
そしてストレッチを始めた。
少し前ならこの時にこちらを見上げたのに・・・・・・
「?」
ふと視線を移すと、隣のグランドでこちらを見ている人物がいた。
「あ・・・」
視線の先にいたのは真田。
そして私と視線が合ったのが分かったらしく、その瞬間にニヤリと笑った。
ような気がした。
真田から彼に視線を戻すけど、結局図書室を出る事になる。
あれから数日後、いつもと変わりなく図書室に足を踏み入れる。
奥まで行って、いつもの場所へ。
「お?今日も来てんのか」
「悪い?」
「一言でも言ったか?俺」
「・・・・・・」
すると真田は私の向かい側に腰を下ろした。
「何してんの?」
「座ってるけど?」
「野球部は?」
「図書委員で当番だから後で行く」
「あっそ・・・」
私は彼から視線を逸らし、グランドを見る。
アイツがニコニコしながらアップをしていた。
「そんなに好きだったんだ?」
「そうよ」
「でももうオンナいんじゃん?」
「マネの子でしょ」
「知ってるんだ」
「見てればわかる」
「そんで二人が話をすると帰るんだ?」
「・・・・・・何よ」
「俺にしない?」
「はぁ?何が?」
「新しい彼氏」
思わず彼に視線を移す。
頬杖を付いてニコニコしている。
「な、なに・・・」
「いや、可愛いなって」
「はぁ!!?」
今まで一度も可愛いなんて言われた事は無い。
どちらかと言えば可愛げ無いとは言われるけど、親にも…
「すっげー顔真っ赤じゃん」
「真田が気持ち悪い事言うからじゃん!!」
「気持ち悪いなら青ざめるんじゃね?」
「っ!!!!!」
すると真田の手が伸びて来た。
大きくてゴツゴツした指が私の頬を優しく撫でたかと思ったら、唇をなぞられる。
「悔しかったんだよな・・・」
「な、なにがっ・・・んっ・・・」
大きな手が私の後頭部に回ったと思ったら引かれた。
その瞬間、唇に温もりが。
角度を変えられ、舌が入り込んでくる。
「んっ・・・・・・」
体を支える為にテーブルに付いた手で真田を掴む。
するとその手を温かい手が包み込んだ。
離れて行く温もりを確かめる様に目を開けて行くと、真田の赤い舌が見えた。
それが濡れて妙にセクシーに見えた。
そしてまた彼は頬杖を付き、握られた手は指を絡める様に握り直された。
「俺にしとけって」
「な、なんで・・・」
「好きだから」
「っ!!!!」
「ほら、また真っ赤」
「もう!」
「良いじゃん」
なにがって答えようとしたら繋いだ手を引かれ、彼の前に立つ。
すると腰を抱かれ、彼の方に引き寄せられる。
バランスを失った私は、彼を跨ぐように膝に座ってしまった。
「ちょっ!?」
「良いね」
「訳がわからない」
「アイツなんてやめて俺にしとけって」
「・・・・・・」
「好きだ」
「もう!!」
きっと私はストレートな物言いに弱いんだと思う。
それを彼に知られたのが運の尽きなのか・・・
けれど想われると言うのは悪くない。
手を握られてもキスをしても嫌な気分にはならないのが答えなのかもしれない。
「OKならからキスして」
「もう名前呼び?」
「そ。だから俊平で良いよ」
「強引だね」
「チャンスは逃したらいけないもんだし」
「野球で学んだ の?」
「いや、からかな?」
「なにそれ」
クスクス笑っていると、腰をぐっと引き寄せられて強く抱かれる。
けれどそれは私の意志を無視したものでは無かった。
きっと逃げる余地はあるんだと思う。
それが分かり、彼の優しさを理解した。
「まだ?」
「仕方ないなー。彼女になってあげるよ、俊平」
彼の首に腕を絡め、私からキスをする。
もしかしたら彼にも見えているかもしれない。
間をおかずに彼氏を変えるなんてと思われるかもしれない。
けれどこの男の唇の優しさが、私の心を変えた気がする。
2017/04/05