ダイヤのA

伊佐敷純

スタートライン

部活を引退した途端、襲ってくる受験と進路の文字。

あの時の敗戦を受け入れられない自分の時計は止まったまま。

哲も他のヤツラも自分の方向性は見えているらしい。

なんであの敗戦を受け入れられるんだ?

俺はまだ甲子園への夢を諦めきれない。

頭ではわかっている。

もう自分にはチャンスが無いと。

それは転んでも逆立ちしても変わらない事実。

「あれ?伊佐敷まだいたの?」

ぼーっと外を眺めながら考えていると、が声を掛けて来た。

「なんだよ、いちゃ悪いのかよ」

「たそがれてるなんて柄じゃないっしょ」

「うるせえ」

するとは俺の前の席に座った。

そして俺の机に頬杖をつく。

「で?何なやんでんの?お姉さんに話してみたまえ」

「はぁ!?つーか同じ年だろうが!」

「誕生日は私が先なんだな」

「ワケわかんねえ。つーか話さねえよ!」

「えー・・・せっかくちゃんが聞いてあげるのに」

「余計なお世話だ!」

「じゃあさ、私の話聞いてよ」

「めんどくせえ」

「うるさい、黙れ」

「なっ!?」

「私さ~好きな人がいるんだよ」

「コイバナかよ!」

「で、ソイツってば野球バカで。口が悪いクセに人情厚くて」

「は?」

「おっかないツラしてるのに少女漫画読んじゃって」

「うるせえ!ってか俺かよ!?」

「少女漫画読んでるわりに乙女心分かってないよね~」

「そんなんで理解出来るか!?」

「だよね~伊佐敷だし」

「どういう意味だ!」

「ま、卒業までには返事してよね」

「半年も猶予があるのかよ」

「二年半待ってたからね」

そう言い残し、は教室を出て行った。

待て待て待て!

オレは受験の事だけでも手一杯なんだぞ!?

その上、恋愛だと!?

の事は嫌いじゃないが、そういう対象で見た事が無い。

そもそも野球以外の事を考えて来なかったしな。

「寮に戻ったら漫画読み直すか」

鞄を持ち、俺も教室を後にした。



2016/05/02