ダイヤのA
それでもわたしはあなたに恋をする
「なあ、俺と付き合わない?」
そう神谷から言われたのが一年の春先の事だった。
見た目怖いし、まだ良く知らないしで断った。
それから何度か言われ、やはり断っていた。
彼の事を知ってるかと言えば、表面的な事は知っている。
ハーフで野球部でレギュラー、俊足で気が利く人。
成宮君までとはいかないまでも、それなりに人気のある彼。
どう考えても平凡を地で行く私と釣り合うものじゃない。
私は友達といない時は本を読んでいる。
部活に所属しない私は、放課後を図書室で過ごす事も多い。
そして今日も新刊が入る日なので図書室にいた。
本を選んで窓際の席に向かう。
窓の向こうは雨がしとしとと降っている。
雨の日のここは好きだ。
外界を雨がシャットアウトしてくれるから。
「やっぱりここにいたのかよ・・・」
私の隣に座ったのは神谷。
そして本を読む事も無く、机に突っ伏した。
「練習は?」
「規定のメニューは終わったぜ」
「そう」
そして私は本を広げ、文字を追う。
幸いな事に新刊のストーリーは引き込まれる面白さだ。
どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。
新しいページへ視線を移す時、視界の隅で彼を捉えた。
机に伏せながら、私の方を見ている。
「・・・なに?」
「まつ毛長いな・・・」
「普通じゃない?」
「相変わらず素っ気ねえな」
「愛想を振りまく理由も無い」
「なあ・・・」
ふわっと温かいものが私の頬を覆った。
それが神谷の掌と気付いたのは、彼に視線を移した時だった。
何も言わず彼を見る。
頬をゆっくり撫でる彼の親指は、決して良い感触では無かった。
ゴツゴツとした固い指。
それは彼が本格的に野球をしている証拠であり、不快なものでは無かった。
そこで思う。
何故不快じゃないのか。
彼の努力を知っているからだけだろうか。
「早く・・・落ちて来いよ、」
「どこに」と言う言葉は彼の唇に吸い込まれてしまった。
抵抗しなかったのは何故なのか。
その答えを出すのは、彼が言葉にした時にしようと思った。
2016/06/29