ダイヤのA
夏の花火
青道高校に入学して3か月。
毎日の食事が苦痛でしかない。
けれど自分の為なのは分かっている。
自分がヒイヒイ言いながらこなす練習も、大量の食事も軽々こなしていく先輩達。
一朝一夕で上達する訳じゃないのに気持ちばかりが焦っている。
御幸「おはよう」
部員「「「「「おはようございます」」」」」
朝食が始まる前、部長である御幸先輩から一日の連絡事項が言い渡される。
御幸「今日は練習が休みで近所の神社で夏祭りがあるけど、行きたいヤツは行って良いぞー」
「マジか!」「やりぃ!!!!」と、先輩方は喜んで声を上げる。
自分は遊んでいる暇なんて無い。
先輩方が遊んでいる間に少しでも距離を縮めなければ!
やっぱり走り込みか?
授業の合間に今日の予定を考えていく。
けれどその考えが水の泡と化してしまう。
御幸「あ、奥村は祭り行き強制参加な」
奥村「っ!?自分は自主練を」
御幸「あれあれあれ~?一日くらい俺達と祭り行ったくらいで追い抜けないのかな~?」
奥村「ガルルル……行きます」
御幸「はい、決定。はっはっは」
何故御幸先輩と沢村先輩は高笑いばかりするのか謎だけど、祭りに行くことにした。
茹だるような暑さの中、足を進めていくとお囃子の音が聞こえてくる。
「あれ?御幸……に野球部の面々じゃん」
御幸「おお、」
「あ、奥村くんもいる」
奥村「こんばんは」
瀬戸「知り合いなのか?」
奥村「委員会が同じ」
声を掛けて来たのは3年の先輩。
図書委員が同じで、当番を一緒にした事もあって顔見知りだ。
制服とは違って浴衣を着ている。
倉持「ヒャハ!孫にも」
「その続き言ったら殺すから、倉持」
前園「せっかく綺麗な格好してんのやから止めとけって」
御幸「にしても、一人で来たのか?浴衣で」
「違うわよ!……だけ」
御幸「え?」
御幸先輩が掌を耳にあて「聞こえない」アピールをしている。
倉持「ヒャハハ!お前、この年になっても迷子かよ」
「うるさい!迷子じゃなくてはぐれただけ!!ちょっと御幸!お腹抱えて笑うな!」
白洲「それなら俺達と回れば良いんじゃないか?」
御幸「物好きはどこにでもいるからな」
「あんた、本当に性格悪いわね。奥村くんや一年の子達も一緒して良いかな?」
瀬戸「華があって良いと思いますよ」
先輩の視線がオレに向いたから、頷いて答えた。
すると先輩が笑ったような気がした。
それから屋台を回っているうちに先輩の友人も合流し、結局大人数で移動した。
そろそろ花火が上がる時間なのもあり、広い土手へと移動。
「奥村くん、楽しんでる?邪魔しちゃったかな」
奥村「いえ」
答えた時に真っ暗な夜空に花火が広がった。
その瞬間に先輩の顔が花火で一瞬照らされた。
普段とは違うアップにされた髪、浴衣からのぞく白い首筋が見えた。
ここでもまた、たかが2歳の差なのにその差が大きいと実感させられる。
「?何か付いてる?」
奥村「いえ、何も」
「花火も終わっちゃったし、戻ろうか」
そういって先輩はオレの腕をトンと叩いた。
奥村「はい」
自分の心の中にも花火が咲いた様な気がしたけど、花火の様に一瞬で消えていった。
2018/09/12