ダイヤのA

真田俊平

ラブトレイン2

高校三年の一学期中間テストと言えば、進路の掛かった大勝負。

勿論、受験生である自分とて例外ではなく、勉強にいそしんでいた。

そして勉強の片手間に恋愛を……嘘です。

恋愛メインになってて、かなりまずい状況です!!!!

春には真田君の応援に遠路遥々名古屋まで行ったのだった。

だから通学電車では必死こいて勉強をする。

暇な時間を色ボケしてるなら、通学時間くらいは勉強しようと考えたのだ。

真田君は案外とマメなのか、練習が終わるとメッセージのやり取りが始まり勉強どころではなくなってしまうのだ。

けれど正直に言って、艶っぽい会話はなに1つない。

【今日はこんな練習をした】とか、【誰誰が何をした】とか。

普通の友達とのやり取りと変わらない。

果たして、これがカレカノの会話なのだろうか?

否!断じて否!!!!

それでも楽しいと思えるのは、私が彼を好きだからに他ならない。

1つだけ変わったのは、からと言われる(書かれる?入力される?)ことだ。

それだけで私は天にも舞い上がるような気持ちになる。

単純だな~とか思うけど、まあ、それが乙女心ってヤツで。

とと、また思考が脱線した。

「さっきから同じページばっか見てるけど難しいの?」

「ちょっと考え事……え?」

単語帳から顔を上げると、真田君のドアップがあって「おはよ」と喋った。

「っ!!!?」

「うわ~見事に真っ赤だな」

「お、おはよ……」

「それってテスト範囲?」

そういいながら私の頭上にある手摺に捕まり、手元にある単語帳を覗き込んでくる。

ふらりと香る、スパイシーな匂い。

父親とも違う、友達とも違う「男」を意識させる匂いがした。

って真面目だな」

「ま、真面目というほどでは……」

「これってテスト範囲?」

「え?あ、うん」

「マジで?」

それから駅に着くまで、彼は私の手元を覗き込んでいた。

今までに無い密着(近いだけでくっついてはいない)具合に、酸欠になりそうだった。

「なあ」

「な、なに?」

「手、繋いでいこう」

「えぇ!?」

「ダメ?」

「ダメ!」

「即答!?何で?」

「は、恥ずかしい」

「俺と手を繋いで歩くのが?」

「地、違うっ!!!!」

「んじゃ、決まりな」

彼の左手が、私の右手を包み込んだ。





「おはよ」

翌日も同じ電車に乗って来た真田君。

今日も私の手元の単語帳を覗き込んでいる。

すると電車がブレーキをかけ、体が傾いた。

「っと。今日の運転手ブレーキ遅くね?」

私を支えるように肩を抱き、何両も前の運転手が見える訳じゃないけど前方を見据えた。

ホームに到着してドア開いても、彼の手が離れていかない。

「あの、真田君?もう大丈夫だけど」

「ん?ああ、そうだけど……あ、そっか」

何か思いついたような顔をしたかと思ったら、私の背中にあったドアが無くなって体勢が入れ替わった。

彼の背に私が背にしてたドアがあり、私は彼と向き合う形になる。

そして……彼の腕が腰に巻き付いた。

「さ、さ、真田、くんっ!?」

「これならは単語帳見てられるし、俺もを支えながらくっついていられて一石二鳥。いや、三鳥?四鳥?ま、いっか」

腰から下が密着してる状態で勉強なんてムリーーー!!!!

「ちょっ!真田君!」

「なに?」

「は、は、は、恥ずかしい!!!!」

「だろうな。の顔、真っ赤だし」

「それなら」

「それじゃあ、名前で呼んでよ」

「え?」

「俺はって呼んでるのに、いつまで経っても名前で呼んでくんねぇし」

「えっと…」

はもう俺の彼女なんだし。ちゃんと名前で呼んでよ」

……言われてみればごもっともなんだけどね?

未だ恋人って括りが恥ずかしくて仕方ないんだってば!

乙女心を分かってと言っても乙女にしかわからないんだろうな~とか思っちゃったり。

現状を打破するには呼ぶしかないだろう。

いや、家ではこっそり練習してたりもした。

本当にこっそりで言葉にするだけで恥ずかしくて死ぬかと思うくらい!!!!

それを今やれですと!!!?

今この他人の目が多々ある状況で腰を抱かれてるとか、どっちが恥ずかしいかなんて決まっている!

現状を打破するしかないんだ!!!!

「しゅ、しゅんぺい……くん」

「呼び捨てで」

「しゅ、俊平」

「あーもう、激アツ!」

と言って抱きしめられた。

え?抱き!?

いやいやいやいや!!!!

離れようとしてもスポーツマンの彼にかなうはずも無い。

私の視界で驚く人達の目が見えた。

その中にはもちろん、同じ制服の姿も!

「ちょっ!真田君!?」

「名前」

「しゅ、俊平!」

「嬉しくて離せないわ」

「えぇー!?」

「ヤベェ。俺、幸せ過ぎる。今なら稲実でも完封する自信あるかも」

「い、いなじつ?かんぷう?」

よくわからない単語が並んでいるけど、分かっているのは放して貰えない事。

だから私は、顔を隠すように彼の肩に額を当てた。


2019/04/01