ダイヤのA

真田俊平

ラブトレイン

テスト1週間前ともなると、電車での相棒は単語帳へと変わる。

電車は混んでるし、憂鬱だ。

そう思ってた矢先、隣の車両に真田俊平がいた。

(うそっ!あ、朝練無いんだ!!!)

1年の頃、彼と同じクラスだった。

けれど特別話をした事は無く、私の一方的な片想い。

2年の修学旅行では彼女が出来たと噂されていた彼。

春には甲子園出場を果たし、人気上昇だ。

自分は小さいけど背の高い彼は結構見える。

普段彼を見るのはうちのクラスの野球部員の所へ来た時くらい。

学校に着く頃には朝練終わってるし。

・・・・・・何だか得した気分。

今の状態だと彼の方が改札に近い場所。

私は学校までの道のり、彼を見ながら歩けると言う事。

(凄い嬉しい!!!)

なんて思ったのも束の間。

もうすぐ駅に着くと言うのに私の体が動かない。

スカートがドアに挟まっているのだ。

こちら側のドアが開くのは2つ先の駅。

時間的に言えば・・・・・・・走れば間に合う・・・はず。

せっかくの真田君との時間が・・・。

電車がホームへ滑り込むと人が一斉に動きだす。

「何してんの?」

「え?」

顔を上げると目の前には手すりに掴まる真田君がいた。

「え?何で降りないの?え?」

「あースカートか」

グイッと体を乗り出して私の肩の辺りから顔を出し、私の背後を確認したらしい。

体が近付いた事で私の心臓はバクバクだ。

「こっちのドアが開くのって2つ先だっけ?」

「あ、閉まっちゃうよ!?」

言ってる傍からドアが閉じてしまった。

「ん?時間はまだあるじゃん」

「そうだけど、かなりギリギリになるし。と言うか真田君関係ないし」

「旅は道連れって言うじゃん?それに俺がいた方が楽だと思うけど」

「??」

「まあまあ。久しぶりだし話でもしてりゃすぐだって」

そして彼の言葉に甘えダラダラと話しながら2つ先の駅で乗り換え、Uターンする。

たった4駅だけど、二人でいられて嬉しかった。

もうすぐ駅と言う時になって「の荷物貸して」と言われる。

断ったけど奪い取られた。

そしてドアが開いてダッシュをする。

改札を通り抜け、彼は私の横を走っている。

荷物を持ってくれてるだけでも私は楽になっている。

「さ、先・・・行って・・・遅刻・・・しちゃうかもっ・・・」

「大丈夫大丈夫。鍛えてるし」

「でもっ・・・」

「でも間に合わないかもしれないよな・・・よっと」

「うわっ!」

「もうちょい頑張れよ」

真田君が私の手首を掴んだ。

ぐっと引かれながら走る。

「えっ?・・・あっ・・・」

「もうちょい頑張れよー」

そう言って私の腕を引いたまま走り続ける。

校門を過ぎると学校中に予鈴が響き渡る。

このまま行けば間に合いそうだ。

「しゅんぺーーー!女と登校かー?」

どこかの教室から大きな声がする。

二人で足を止めて見上げると、大きな声に誘導されたのか他の教室からも顔を出す生徒達。

女の子からは黄色い声が上がっている。

「おー良いだろ?」

そう言って真田君は私の手を一緒に挙げた。

その瞬間、冷やかしやら野次やら悲鳴やらと大騒ぎ。

「あ、ヤベっ!遅刻する」

そう言ってまた私の手を引いて走り出した。

彼が手を離してくれたのは下駄箱の所。

お互いの上履きの場所が違うからだ。

とりあえず上履きを降ろすけど、息が整わない。

膝に手を付いてハァハァとしていると「急げ」と真田君の声がした。

「・・・・・・うん」

ローファーを脱いで上履きを履くと、脱いだローファーを真田君が下駄箱に靴を入れてくれた。

「あ、ありがとう」

「急ぐぞ」

2つ鞄を持ったまま、私の手をまた掴んだ。

掴んだというか今度は繋いだ、だ。

階段を上がろうとすると担任が教員室から出てくるのが見えた。

遅刻はしないですむ。

けれどこのまま上がって行くと、きっと誰かが見ているだろう。

「さ、真田君、手・・・離して」

「ん?ああ、それは無理」

「えぇ!?」

「好きな子が困ってて、やっと手、繋げたし」

「え?」

階段の踊り場で告げられた想い。

理解不能な彼の行動に合点がいった。

というか・・・

「おぉ・・・真っ赤だな」

「あっ・・・」

「返事は後で・・・って、聞かなくても分かるか」

「え?あのっ!」

「次の休み時間に行くから、連絡先交換しようぜ」

「おーい、そこのバカップル。欠席にするぞ」

「あ、ヤベっ」

そして手を繋いだまま階段を上がって行くと、やはり廊下には生徒達が。

「んじゃ、。後でな」

私の教室の前で荷物を渡され、真っ白い歯をニッと見せた彼が別の教室に向かう。

「さっさと入らなんと遅刻にするぞー」

「え?ヤダ!」

ドアを開けて教室に入ると冷やかしの声が。

けれど先生が入ってきて収まる。

そして本当に休み時間になったら真田君が来た。

「今日から俺の彼女なんで、よろしくなー」と言ったので、本当に彼が彼氏になったんだなと思った。


2017/05/26