ダイヤのA

成宮鳴

拒否権はあげないよ

甲子園に行った成宮君から毎日メッセージが届く。

決勝戦も生徒全員で応援になり、学校が借りたバスで前夜に出発。

彼からのメッセージをバスの中で受け取っていた。

『応援来るんでしょ?』

『今バスで向かってるよ』
『新幹線でくればいいのに』

『全校生徒で新幹線乗れないよ』

『貸し切れば良いんだよ』

『予算もあるんじゃない?』

『まあいいや!明日もちゃんと応援してよね!』

『うん。成宮君も頑張って』

『いつも頑張ってるし!おやすみ!!』

『おやすみ』

既読が付いたのを見て、携帯を鞄に仕舞った。



準優勝という功績を残し、夏の甲子園大会が幕を閉じた。

熱い戦い・名勝負、そんな言葉が合う試合だった。

野球を知らない私からすると、何人ものピッチャーが変わる相手がずるいと思った。

最後まで一人で投げぬいた成宮君。

私を含め、スタンドで彼と同じように涙する者も少なくなかった。

『明日帰る。3時に教室にいて』

夜に届いたメッセージ。

『わかった』と返事をし、時間より前に教室に向かった。

夏休みも十日を切ったこの時期でも、校内には人がいる。

教室へ足を踏み入れると、夏期講習もない部屋なので誰もいない。

自分の為だけにエアコンを入れるのは気が引けて、窓を開ける。

幸いにも風があるが、生暖かすぎてお世辞にも気持ち良いと言えない。

こんな暑い中、彼は日陰の無い場所に立ち続ける。

「あれ?もういたんだ」

背後から声が聞こえ、振り向けば成宮君がいた。

彼はどんどん私へと近づいてくる。

そして歩みが止まらないまま私を抱きしめた。

「何でエアコン入れないの」

「え?授業とかじゃないし」

「まあ、良いけど」

「えっと・・・」

「ごめん」

「え?」

「泣かせるなら嬉し涙にするつもりだったのになー」

小さな声と共に、抱きしめる力が強まる。

昨日の今日だ。

きっと悔しくて仕方ないんだろうな。

「お疲れ様」

私の小さい声は聞こえたかな?

一瞬震えた肩が答えなのかもしれない。

そしてガバっと離れ、肩を捉まれる。

「でさでさ、やっぱり惚れた?」

「・・・・・・」

「ちゃーんと見ててくれたのはマウンドからでも分かったし」

「マウンド?」

「ピッチャーのいる小高い丘」

「ああ・・・うん」

「何それ!どっちかわかんないじゃん!」

「かっこよかった・・・と思う」

「惚れた?好きになった?」

「・・・・・・かも」

「そっか~~~。じゃあさ、キス、していいよね?」

「えぇ!?」

「まあ、拒否権無いけど」

優しく触れた唇。

少しカサついているのは緊張してるからなのか。

10センチも離れないうちに再び重ねられる。

それと同時に抱きしめられ、私も彼の背に腕を回した。




2016/11/22