ダイヤのA

倉持洋一

仕返し

高校も3年になると、クラスに行く回数が激減する。

寮生活のヤツラとか頻繁に顔を合わせるが、通学組となると月単位で会わないなんてザラで。

俺が良いなと思ってるも通学組で、お互い進学だけど大学が違うから顔を合わせるのは年末以来となった。

ホームルームの5分前に教室に入り、さりげなく視線を彷徨わせてを探す。

の席は俺の席より2列左側の更に前に3つ。

(いた!って、髪、伸びてるし)

はバレーボール部で常にショートカットで。

久し振りに見た彼女は髪が伸びて耳や首が隠れる長さだ。

ただ髪が少し伸びただけなのに大人びて見えた。

ホームルームは卒業式に関するもので、少々伸びたものの授業はもうないから1限目に更に詳しく話すことになる。

その内容を聞いていると、本当に青道を後にするんだなって実感がわいてくる。

「んで?告んねぇの?」

御幸の所でダベってたらヤツがニヤニヤしながら俺を見てくる。

「言うかよ」

「は?言わねぇのかよ」

「ちげーよ!御幸には、だ」

「ふ~~~ん」

キラリと光った眼鏡の向こうの目が三日月みたいに細くなってんだろうなってのは簡単に想像がつく。

だからと言ってベラベラ喋ればそれはそれでニヤニヤ面白がるのが分かってるから言わない。

風の噂で聞いた彼女の受かった大学は、同じ都内とはいえ遠くも無ければ近くも無い。

しかも大学によってキャンパスは複数あるから尚更だ。

それこそ偶然が重ならなければ会う事も無くなる。

とはいえ、どうやって彼女へ思いを伝えるもんかと悩んでいるのも確かだった。

悶々としつつも放課後はクラスのヤツラとボーリングとカラオケに行ってきた。

状況は何1つ変わらないのにちょっとスッキリした。

寮までもう少しと言う所で、その寮からが出て来た。

「何やってんだ?」

「ああ、倉持。の部屋で喋ってたらこんな時間になっちゃって」

彼女が口にしたのはの親友ので、彼女は寮生だったのを思い出した。

「暗いから送ってやるよ」

「え、良いよ。部活の時はもっと遅かったし」

「いいから、行くぞ」

と彼女に背を向け歩き出すと、後ろから小走りに追いかけて来て隣に並んだ。

「倉持は遊びに行ってたの?」

「ん?ああ、野球部の連中とな」

「もうすぐバラバラになっちゃうしね」

も寂しいと思っているのか、声が少し小さくなった。

は大学でもバレーやんの?」

「多分やらないかな」

「え?マジ?」

「私は女子の中じゃ大きい方だけど、バレーやってる子の中じゃ小さいし」

「そうか?」

「そうだよ。なんて男子からしたら小さくて可愛いんじゃない?」

「そうか?」

「そうだよ。それに比べたら私は男子と変わらないし。倉持とだってそんなに変わらないよ?」

「別に良いんじゃね?色々便利そうだし」

キスする時とかいちいち屈んだり、背伸びさせたり、上を向かせたりとかしないで済むしなんて心で繋げてみる。

「え?便利って?」

「は?いや、何でもねぇ」

「気になるじゃん!」

「だーかーらー」

俺は彼女の腕を掴んで自分に向かせて顔を寄せる。

「こういう事」

さすがに気持ちを知らないのにキスは出来ないから顔を近づけて囁いてみる。

の顔は真っ赤で目を見開いているのが見える。

けれどすっと長いまつ毛が揺れたと思った瞬間、唇に熱が。

「なっ!!!!」

「仕返し」

真っ赤な顔をして口元を隠す彼女。

だからその手を取って自分に引き寄せ、俺からキスをする。

「仕返しの仕返し」

それから彼女の手を繋ぎながら、家まで送って行った。


2023/03/13