ダイヤのA
誕生日2018
「・・・・・・逃げないのかよ」
「・・・・・・」
「拒否んねぇなら続けるぞ」
矢次に言われてもちょっと待って?
頭の中を整理するから。
私の背中には柔らかい感触だから多分ベッドがあって所謂押し倒されてる状態。
で、押し倒してるのはゼミが同じ倉持洋一で。
彼の後ろには見慣れない天井が見えた。
大学で知り合った倉持洋一。
見た目ヤンキーだけど気が利いて良いヤツの典型。
高校三年間野球三昧で大学でも野球部に所属している。
同じ学部で仲が良い方でもあるし、試合の応援に行った事もある。
基本的に私のタイプじゃないけど、頑張ってる姿は素直に格好いいと思えた。
と言っても友情の中の好意から出るまでにはいかなかった。
私のグループと倉持のグループは仲が良くご飯を食べに行ったり遊びに行ったりしていて、誰かの試合には応援に行く。
そんなグループ交際の様な関係が続いていた。
そして5月17日の今日、皆で倉持の家にサプライズバースデーの為に押しかけていた。
ケーキにお酒に食材を買いこみ彼のワンルームの小さな台所で季節外れの鍋を作って飲んで騒ぐ。
と、此処までは良かった。
途中で私の意識はブラックアウトしてしまった。
『パタン』と言う小さな物音で目が覚める。
ゆっくり瞼を上げて行くと薄暗い部屋の中。
自分の物では無い布団の感触。
カチャチャと小さいグラスの音がして頭を動かす。
すると明るい冷蔵庫の明かりが倉持の顔を浮き上がらせていた。
「あ・・・」
「ああ、わりぃ。起こしたか?」
「私こそ寝ちゃってゴメン」
「それは別に良いけど・・・具合悪かったのか?」
上半身を起こすと倉持が近付いてきてベッドに腰を下ろした。
暗くて分からなかったけど良い匂いがするうえに、上半身裸で首にタオルを巻いてる状態だった。
そしてゆっくり腕が持ち上がって私の方に伸びて来た。
「・・・っ!!!?」
「?」
倉持の掌が私の首筋に添えられる。
「ああ、わりぃ。額で熱って測れねえんだよ」
「具、具合が悪いんじゃないから」
「そうなのか?」
「昼から頭痛がして鎮痛剤飲んだの忘れてお酒飲んじゃったから」
「頭痛って」
「肩凝りだと思う・・・・っ」
真っ直ぐ彼の顔が見れなくて何となく下を見てたけど、視界に映る彼の腹筋が見事に割れていた!!!!
何だか急に倉持が男の人に見えて、落ち着かない。
「あ!そろそろ帰らなきゃ」
「もう終電ねぇよ。そのまま寝とけ」
「で、でも、倉持がっ!」
「俺はその辺で雑魚寝でも・・・・・・・あ、俺さ、今日誕生日なんだよな」
「ひ、日付変わってる!」
「誰かさん寝ちゃうしさ」
「うっ・・・」
「一緒に寝ようぜ」
「は?ここで?」
「ここで」
倉持のベッドはシングルだけど、私と彼が寝るくらいなら平気そうだ。
「良いけど」
「・・・・・・・・お前、意味わかって言ってんのか?」
「だから一緒に寝るんでしょ?倉持大柄じゃないし可能かなって」
「ニブイとは思ってたけど、ここまでとはな」
「・・・・・え?」
気が付くと押し倒され、両手がベッドに押し付けられる。
そして冒頭に戻るワケで。
って、冷静に考えてる場合じゃない!!!!
視界から彼の顔が消え、首筋に温もりが。
ちゅうっと音がしたと思った瞬間、生温かい舌が首筋を撫で上げる。
「やぁっ!?」
私の両手は頭の上で一まとめにされ、空いている彼の右手が私のTシャツの中に入り込んで来た。
ウエストに添えられた手が、ゆっくりと杯上げってくる。
「んっ・・・」
ゾクゾクっとした快楽がせり上がってきて鼻から甘い息が漏れる。
彼の親指がブラの線にたどり着き、他の指が脇腹を撫でた。
「あっ・・・・やっ・・・」
温かい掌が背中に回り、胸を締め付けるブラジャーが緩む。
そして手の平がワイヤーのあった部分に到達した。
「、こっち見ろ」
身体を動いていた手が止まり、倉持が喋った。
こんなに恥ずかしいのに無理!
そう思ってたのに顎を掴まれて無理矢理彼の方を見るはめになった。
「っ!!!!」
「言っておくけど酔った勢いなんかじゃないからな」
「・・・・・・」
「その・・・なんだ・・・・・・入学した頃から好きだった」
「え?」
「だから!ちゃんと気持ちあっての事だからな!!」
「くらも、ち・・・・・・・この体勢で言われても」
「いや、もう何かいっぱいいっぱいで」
そして私の腕の拘束が解けて、倉持は私の上で手を付いて項垂れた。
「惚れた女が無防備に自分のベッドで寝てりゃ・・・」
「倉持?」
無意識に濡れた髪に指を入れて顔を見ようとしたら、その手が捕まれた。
「お前さ、何にも思ってないならこういう事すんなよ」
「何もって」
「何だよ」
「嫌いだったら逃げてるよ」
「あんま煽んなって」
そう言って彼は大きくゆっくり息を吐き出した。
そして「わりぃ」と呟いて私の上から移動した。
けれど思わずその腕を掴む。
「お前・・・」
その腕の逞しさにクラクラした。
「その・・・分かんないんだけど・・・」
何で引き留めたのか分からない。
けれど私から離れていくのが寂しいと感じた。
「良いのか?続き、するぞ?」
「・・・・・・うん」
その瞬間、再び彼がベッドに乗り上がってきて唇が重なった。
角度を変えて重なる唇。
私は倉持の背中に腕を回す。
すると耳元で「」と名前を呼ばれた。
そのトーンが甘く、心が疼いた。
2018/05/18