ダイヤのA
大丈夫、すぐ俺のこと好きになるから
朝のHR前。
「連絡先教えて!!」
「・・・・・・」
私の前の席で背もたれに腕を乗せて私を見る成宮君。
ニコニコしている彼とは対象に、私は溜息をついた。
昨日はあれから大変だった・・・・・・
休み時間に女の子が見に来て「あの子?ブスじゃん!」とか言われた。
友達には根掘り葉掘り聞かれるし、からかわれるし。
「はーやーくー!先生来ちゃうよ」
ブーブーって顔をしてる男に片眉が上がる。
スマホを取り出すと、素早く奪われた。
「なにこのストラップ」「この待ち受け何!」とか文句を言っている。
窓の外を眺めていたら「、」よ呼ばれ前を向く。
その瞬間に肩を抱かれ「イエーイ(カ シャッ)」と声と音が聞こえる。
「ちょっ!?」
「はい、これ返す。ご利益あるよ?それ。ぷくくっ・・・」
返されたスマホを手にし、ロック画面を解除する。
「なっ!!?」
待ち受け画面が今撮影された写真になっていた。
どうやらラインで彼にその画像が行ってるらしい。
「よーし、席に着け~」
先生が来て、スマホを鞄にしまった。
夏休みに入ってすぐの事だった。
『野球部地方大会決勝戦を全校生徒で観戦します』
とお達しが届いた。
その後すぐ、成宮君からメッセージが届く。
『ちゃんと応援してよ!の声は絶対届くから。
野球してる俺を見たら絶対に好きになるしね』
甲子園の掛かった大舞台でこの余裕。
思わず笑ってしまった。
試合が始まる前にトイレに行き、席に戻る時に聞いた。
「今年の稲実は最強メンバー」「関東?1ピッチャー」等。
席に戻ってタオルを被る。
配布された応援グッズを持って応援を続ける。
相手の青道高校は強い。
あの成宮君から4点も取るなんて・・・
時々帽子を取り、汗を拭う。
炎天下の中での投球はキツイのだろう。
私は神に祈る様に手を握り応援し続けた。
9回裏に入る。
稲実の攻撃は願いも虚しくアウトを重ねる。
白河君のデッドボール。
青道高校のピッチャー変更、神谷君の代走。
試合が目まぐるしく動いた。
「3番 キャッチャー原田君」
場内アナウンスがかき消されるほど、全校生徒で応援した。
「カキーン」
鳴り響く金属バットの音。
塁に出ている選手が走る。
「セーフ!!」
主審の声が歓声を更に大きなものとする。
これで同点。
ピリピリした空気が肌を刺す。
こんな緊張感、観てるだけでも辛い。
「5番ピッチャー成宮君」
普段見せない顔をこの試合中に何度も見た。
私は彼を何も知らなかった。
再び響いた快音に、私は涙が止まらなくなっていた。
2016/8/31