ダイヤのA

小湊亮介

恋人のキスをして

「春っちー!」

ピンク色の髪が見えて思わず肩を叩く。

けれどその事を物凄く後悔した。

「誰?」

「・・・・・・え?・・・・・・ごごごごごごめんなさい!!!!!!」

肩越しに振り返った顔は、私の知ってる春市君じゃなかった。

まずい・・・・・・大魔王に声を、あまつさえ肩まで叩いてしまったではないか。

兎にも角にもまずは謝罪!

「もももも申し訳ございませんでしたーーーーー」

私は体を2つに折り、90度の綺麗な謝罪をしてみせる。

「誰だ?顔が真っ青だけど」

「春市と間違えたみたい」

「へぇ・・・」

「名前、聞いて良い?」

「めめめめめ滅相もございませーーーん!!!!」

私は急いで華麗なるバックダッシュを決めて教室に戻った。

「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」

「どうしたの?

「大魔王に遭遇した・・・・・・」

「はぁ?」

くっ・・・・・・まずい。

顔を覚えられたかもしれない。

私は自分の愚かさを呪った。



「春市」

翌日の学食、一緒に来た春市君を呼ぶ声がした。

その声を聞いて「ひぃっ!」と思わず背筋を正す。

「あれ?君は・・・」

「二人共知り合い?」

「お前と間違えたらしくて声を掛けられたんだよ」

「きききき昨日は失礼いたしましたーーー!」

「昨日も謝られたし謝罪は良いよ。それより名前は?」

「・・・・・・です」

「何で小声なの?」

「わたくし如きの名を知っていただく必要は無いかと」

「それは俺が決める事だよね。はい、大きな声で?」

「はっ!と申します、閣下!!!!」

「なにそれ」「閣下?」

「大魔王じゃ失礼かと・・・」

「大魔王?」

「あー栄純君だと思う」

「沢村?彼女あの属性なの?」

「違うよ。彼女は学年主席だし」

「へぇ・・・・・。それじゃあ弟と後輩と一緒にご飯にしようかな?」

「え?良いの?」

「良いよ。まだ食券買ってないから席取っておいて」

「いいいいいイエス、ボス!!!!!」

そして私と春市君と大魔王様と一緒のテーブルに。

「・・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」

良く分からないけど誰も何も喋らない。

「あ、あのさ、兄貴」

「何?」

「えーと・・・な、何でもない」

「あの~・・・・・・」

「何?」

「私の顔に何か付いていますでしょうか?」

「目と鼻と口。細かく言えば眉毛にまつ毛に」

「それは知ってます」

「なら聞かないでくれない?」

「・・・・・・・・なにゆえワタクシを見ながら食事をなさるのでしょうか?」

「面白いから」

「意味わからん」

「タメ口」

「・・・・・・」

「片眉がピクピクしてるよ?」

「眉の動きにまで文句あります?」

「別にないけど?」

・・・・・・完全に遊ばれてる。

昨日間違えた事を根に持たれてるのだろうか?

そんな風に見られながらのランチが終了した。



そして翌日の4時間目終了直後だった。

財布を持って学食に行こうと立ち上がろうとしたら頭上から「こんにちは」と声がした。

顔を上げるとそこには大魔王様がいた。

「はい、一緒にお昼行くよ」

「え?」

「お昼食べそこねちゃうよ?」

「へ?」

「はいはい、行くよ~」

と、大魔王様は私の腕を掴み、食堂へと歩いて行く。

「今日は何を食べるの?」

「えー・・・・・・B定食」

「じゃあ、俺はAにしようかな」

と、また見られながらのランチタイム。

次の日も。

その次の日も。

そして翌週になっても続いた。

「あのー」

そして今日も向かい合って定食をつついているけど、あえて問うてみる。

「何?」

「何で毎日?」

「面白いから」

「それだけ?」

するとトレイをどけてテーブルに身を乗り上げる様にして顔が近付いた。

「もしかして、好きだって言われるの期待してるとか?」

「しししししてません!!!!」

「本当かな?」

「本当です!!!!」

「それじゃあ、良い事教えてあげるよ」

すると大魔王様がチョイチョイと手招きをするので顔を逸らしつつも距離を縮める。

「っsdfghjklp!?」

「わかった?」

「きゃーーー!!!!」

声にならない声を上げて頬を押さえて距離を取る。

周りからは黄色い悲鳴が上がる。

「ななななっ!?」

「さてと、まずは大魔王様は止めて亮介さんって呼んでごらん?」

とニッコリ微笑まれた。

「ほら、早くしないと今度は唇にしちゃうけど?」

「りょりょりょりょうすけさん!!!」

「良くできました。それじゃあ、行こうか」

「え?どこに」

「二人きりになれる場所。あ、そこの君、これ、片付けて置いてくれる?」

と、どこぞの誰かもしらない人間に二人分のトレイの片付けを頼み、私の手を取り歩き出す。

時々女の子の悲鳴が聞こえた気がするけど、それどころではない。

着いたのは誰もいない視聴覚室。

手を引かれたまま奥に進み、先輩は窓際の机に腰を下ろした。

「あ、あの・・・」

「名前」

「りょ、亮介さん」

「なに?」

柔らかい表情で微笑まれても・・・・・・現状把握が出来てない頭はパニックだ。

そんな私を亮介さんはじっと見てくる。

「それじゃあヒントあげるよ」

「はい」

「俺はどうでも良い子に割く時間は無いよ?」

「・・・・・・」

「嫌がられてる子にもちょっかい出さないしね」

「・・・・・・・・」

「はい、答えは?」

「亮介さんが好きです」

「やっぱり面白いよ」

「え?違いました?」

「外れてはいないけどね」

そう言って私の事を抱き寄せる。

近くなった顔の距離。

「身長差が少ないとキスしやすい」

さっきとは違い、今度は唇にキスされた。

すぐに離れていった唇。

額をくっつけ、彼の親指が私の唇をなぞる。

「・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「もう一度・・・」

「次はもう引き返せないよ?」

「・・・・・・良いです」

の事、ちゃんと好きだから」

今度はぎゅっと抱きしめられて、恋人のキスをした。


「ところで最初に大魔王って言ってたのは?」

「沢村が春っちのお兄さんは大魔王様なんだって言ってたから」

「へぇ」

「それから何となく大魔王様呼びしてました、ごめんなさい」

へのお仕置きはそのうちするけど、沢村は・・・今日の部活で、かな?」

頑張れ沢村と心で手を合わせた。


2017/07/14