ダイヤのA

真田俊平

キスはさよならを呑み込んで

私の名前は

どこにでもいる高校生をして、

どこにでもいる大学生をして、

どこにでもいる会社員をしています。

結婚願望はあるけど彼氏はいません。

出会いもありません。

ちょっと、自分で言っててなんだけど、私の人生終わってない?

でも何というか、合コンとか紹介とかめんどくさいというか。

そこにかける労力が失われたというか、趣味に費やすというか。

特別趣味らしい趣味も無いんだけどね?

なんとなく友人に誘われたらついていく、みたいな?

親からは結婚だ、孫だと言われるけど、こればっかりは仕方ない。

かといって見合いはしたくないし……今時見合いってあるの?

上司からも話は無いし。

そんなこんなで迎えた4月。

うちの会社にも新入社員はやってくる訳で。

「あ、、ちょっと」

上司に呼ばれてデスクに行くと、うちの野球部に新しい人材が入るらしく、その人の面倒をみてくれって内容で。

まあ、今までにもあったし初めてでは無い。

けれど人生何があるか分からないものだ。

「初めまして、真田俊平です」

バリっとスーツを着て目の前に現れたのは高校時代の元カレだった。

「あれ?じゃん。ひさしぶりっ!」

目ざとく私を見つけた俊平は、相変わらず空気も読まない人だった。

それだけじゃない。

「なんだ、真田とは知り合いなのか?」

「知り合いって言うか、彼女です」

「「「「「は?」」」」」

なんて爆弾まで落としてくれました。

真田俊平とは高校時代の同級生で、確かに在学中に付き合っていた。

けれどお互いの進学する大学が遠い事もあり、遠距離恋愛なんて出来ないと別れを告げたのだ。

それなのに、だ!!!!

とりあえず彼とその同期は研修会場へ向かって行った。



昼休みは勿論、さっきの爆弾発言を聞いた連中から質問攻撃を食らった。

けれどそれをのらりくらりとかわして胃袋におさまったかわからない昼食を終えて仕事に戻った。

そして終業時間になり更衣室から荷物を持って社を出ると、ガードレールに腰かけている俊平がいた。

「おつかれ」

「……お疲れ様」

「久しぶりに会ったんだし、飯でも食って帰ろうぜ」

「………わかった」

そして俊平と二人、駅の傍の居酒屋に入った。

こんな時に居酒屋?と思わなくもないが、親密な話を静かな店でするのもあれなんで良いのかもしれない。

俊平は人の気持ちをよそに、生ビールとつまみをオーダー。

早々に届いたジョッキを片手に「かんぱーい」と人のジョッキにカチンと触れさせた。

私もとりあえず喉を潤し、お通しが来たところで話を切り出す。

「なんであんな事言ったの?」

「なんでって、事実を言っただけだけど。何か都合悪かったか?」

「そもそも私達別れたよね?」

「は?いつ?」

「私が留学する時!」

「そういえばいつ戻ったんだ?連絡待ってたのに」

「別れたのに連絡しないでしょ」

「だから別れたっていつだよ」

「留学する時に『遠距離恋愛は出来ないから』って言ったじゃん」

「別れようって言われてないだろ」

「はぁ!?普通、それで別れ話ってわかるでしょ!?」

「普通がわかんねぇけど、別れたとは思ってねぇしな。まあ、こうして再会したんだから良いんじゃね?」

「そういう問題!?」

「あんま堅っ苦しく考えんなって。で?向こうはどうだったんだよ」

細かい事は気にしない昔から変わらない俊平に呆れつつも、留学してた頃の話などをして時間が過ぎていった。



「それじゃあ、ご馳走様」

「おう。んじゃ、帰るか」

後輩にあたる彼に奢らせるのは気が引けたけど、頑なに「払う」と聞かないので奢られることにした。

住んでる場所が同じ沿線という事で、並んで駅に向かう。

色んな話はしたけど、今後についての話は何もしていない。

久し振りに話をして、別れた頃より大人びた俊平に心惹かれるものもある。

けれど勝手に別れたと思っていた以上、私からどうこうしようとは思えなかった。

俊平には彼女がいるのだろうか?

別れてないと言った以上、誰とも付き合ってないのだろうか?

並んで歩いてても会話は無い。

俊平も何か考えてるのだろうか?

彼の顔をチラリと見ようとしたら急に腕を引かれるて路地に入り壁に大きな彼の体で押し付けられて密着する。

「しゅっ…んっ……」

あの頃よりも鍛えられた体躯に荒々しく重ねられた唇。

俊平は俊平なのに、あの頃とは別人の様だった。

「わりぃ……。でも綺麗になってる見たら止まらくなった」

「……」

「なあ、別れたと思ってたならそれでいい。やり直さないか?」

「しゅんぺい……それでいいの?」

「いいも何も、俺から言ってる話だし」

「……やっぱり好き」

「激アツ!んじゃ、帰るか」

俊平は真っ白い歯を見せニっと笑い、手を繋いで駅に向かって歩きだした。


2020/06/03