ダイヤのA

真田俊平

二回目のキス

急に走った頭の痛みに、深く沈みこんでいた意識が浮上してくる。

こんな目の覚め方なんてサイアクだ。

痛みのあまり、自分の眉根が寄って皺が出来てるのが分かるほど。

何でこんなに痛いんだろう?

(レポート提出が3つ重なって……)

最近寝不足が続いていたのを思い出す。

それから皆で打ち上げだ~と飲みに出たのを思い出した。

しかもあの真田君も参加すると聞いて浮かれまくって参加したんだった。

真田君と言うのは違う学部の人だけど、選択科目が同じで講義の時間に見かける片想いの相手。

野球部に所属してて背が高くて、高校時代は甲子園も行った事があるらしい。

彼女はいないけどファンが凄い上に、わが校のミスに選ばれちゃう子を振ったとか。

そんな噂が駆け巡る人と私がお近づきになんてなれるはずも無く、ひたすら食べて飲んで……えーと、その後は?

というか、私はどうやって帰ったの?

なんかそれすら考えるのも面倒なほど頭が痛い。

これはもう観念して薬を飲むか。

でも寝起きだし布団から出るのも……あれ?

これって私の布団じゃない?

「え?――――――えぇーー!!!?痛っ!!!!」

「……ん?あれ?もう朝?」

目を開けたらシャープな顎のラインが見えて隣に人がいる事に驚いた。

それも女性のじゃない顎が。

そんでもって誰なのか無意識に確認する為に顔を上げたら真田君が寝ていた事に爆裂驚いて思わず後ずさったけど壁に激突。

痛みで体を屈めて後頭部を抱え込んだら視界の隅で彼が動いたのが分かる。

「大丈夫か~?」

なんて優しい、ちょっと寝起きのきっちりした発音じゃない言い回しが可愛いとか思ってしまった。

けれど私の頭を押さえている手の甲から彼の温かくて大きな手の感触がして、勢いよく状態を起こしてさっき後頭部を打ち付けた壁に背中をべったりくっつける。

「だだだだ、だ、大丈夫」

「本当かよ」

目を少し伏せてクスクスと笑う彼を見てられず……ちょっと待って?


寝不足の日々が続く



クマを化粧で消して誤魔化しまくった



化粧も落とさず爆睡



化粧はハゲまくりの見すぼらしい顔を晒してる?



いやいやいや。顔だけならまだしも、涎垂れてない?イビキかいてた?



結論:バッターアウト!じゃなくて女としてアウト!!



そこまで考えて行きついたのは「あーなんてこったい!」で、遅ればせながらも掌で顔を覆った。

「気持ち悪い?」

「ちが・・・う」

「んじゃ熱でもある?」

先ほどの大きな手が首筋に触れた。

「ひゃっ!?」

「熱はなさそうだけど……」

驚きのあまり、顔から手を離したら真田君のドアップ。

「もしかして、俺のせい?」

「っ!!!!!」

図星過ぎて言葉に詰まると、彼の目が細められて更に近付いてくる。

(キス、される…)

なんて思った瞬間に唇が優しく触れ合う。

温かくて少しかさついた唇が、ゆっくり離れていく……と、思った瞬間、角度が変わって押し付けるようなキスになった。

ちゅっというリップノイズの後、ぬるっとした感触が私の唇を撫でる。

息が出来なくて彼の胸を押すと、その手を取られて壁に押し付けられた。

その瞬間に開いた唇の間から、舌が入り込んでくる。

「んっ……あっ……」

絡みつく舌に、吸われた舌が優しく食まれ、生まれてくる快感。

けれど離れていく熱を探すように目を開けると、そんなに離れていない場所に彼がいた。

「好きだ」

「え?」

次の瞬間、私の体がベッドへと逆戻り。

私を見下ろす彼の向こうに天井が見えた。

「好きな女が自分の腕の中に寝てるのに、手を出せない状況って結構キツかったんだけど」

「好きって……」

「ダメ?」

拒否されない事は分かってて聞いてくるって、ずるくない?

長い指が私の鎖骨のあたりをゆっくりと撫でていて、この先に進もうと促す。

私だって彼が好きだし、もちろん答えはYESだ。

けれどこんなにドキドキさせられっぱなしは悔しい。

だから彼の首に腕を絡めて「じゃあ、もう一回キスして」と誘ってみる。

すると彼はクスリと笑って「良いよ」と言った。

多分私の顔は真っ赤で笑われたんだと思う。


「入学式でに一目惚れしたんだよ」って告げられるのは、家まで送って貰う時だった。


2019/02/06