ダイヤのA

真田俊平

缶コーヒーで苦すぎる間接キス

中学に上がってから私が口にするのは缶コーヒーだ。

コーヒーが特別好きなワケじゃない。

どちらかと言えば苦くて嫌い。

でも、こんな真っ黒で苦い物を俊平は好きなのだ。

好きな人の好きな物は好きになりたいけど、やっぱり苦手なのは変わらない。

けれど私は今日もコーヒーを飲む。

ー辞書貸して」

昼休みに教室で友達とお弁当を食べていると、他のクラスから俊平が来た。

「また忘れたの?」

「重くね?あれ」

「そういう問題?」

「あ、コーヒーちょうだい」

机の横に掛かっているバックから電子辞書を取り出していると、

昼ご飯用に買っておいた缶コーヒーを俊 平が口に する。

「やっぱコーヒーだよな」

「あ、ちょっと!」

「後で買ってきてやるから」

そう言って俊平は電子辞書と缶コーヒーを持って行ってしまった。

「幼馴染でも仲良過ぎじゃない?」

「もう家族みたいな感覚なんだよ」

友達ももうツッコミする事も冷やかす事も無くなった私達の関係。

単なる幼馴染。

俊平には彼女らしき子がいた時期もあったし。

高2の途中くらいからか、真面目に野球をやり始めていたっけ。

そんな俊平を陰ながら応援している。



結局放課後になっても俊平は電子辞書を返しに来なかった。

なので私は図書館で勉強した帰りに俊平の家に向かった。

「あら、ちゃん。いらっしゃい」

「俊平います?」

「まだ帰ってないのよ。部屋で待ってて、もう帰るだろうから」

「あ、じゃあ、俊平の机借りますね」

「どうぞどうぞ。昼間掃除しておいたから綺麗よ」

「あはは。お邪魔します」

そして2階にある俊平の部屋に向かう。

殺風景な部屋。

ゲーム機とCDが沢山並んでいるラック。

そこから1枚CDを取り出してヘッドボードにあるコンポに入れて音楽を掛ける。

自分が聞かない種類の音楽がスピーカーから流れ出た。

これが俊平の世界。

ベッドに仰向けに倒れこんで彼が見ている景色が目の前に広がる。

きっと俊平の事だから天井何て見ないか。

寝返りをうってうつ伏せになる。

ここで俊平は寝てるんだな・・・・なんて考えていたらドアが大きな音をたてた。

私はびっくしりて飛び起きる。

「あ、おかえり・・・」

「・・・・・・ただいま」

「こんな遅くまで練習してるんだ」

「ん?まあ、今やっとかないとな。というか何でいるの?」

「辞書」

「あ!悪い悪い・・・」

そして今置いたばかりのバックをごそごそとあさり出した。

でっかい図体で縮こまって探してる姿が後ろから見てて面白い。

「サンキューな」

と、辞書の上には紅茶が乗っていた。

「お礼?」

「ん?違うって。は紅茶の方が好きだろ?」

「え?・・・・えー?」

俊平が近付いてきて辞書を受け取ろうと思ったら、どんどん近付いてくる。

距離を取ろうと思ったら、私の背中はベッドと再会した。

そして俊平は私の顔の横に手を付いて私の上にいる。

「な、なに・・・」

「いや?可愛いなと思って」

そう言って段々顔が近付いて、唇がゆっくりと重なり合った。

「しゅんっ・・・んっ・・・」

すぐに離れていった唇。

けれどすぐさままた塞がれ、今度は舌が入り込んで来た。

「んっ・・・はぁっ・・・・・・」

何が何だか分からなくて腕で俊平を押すけれど、その手を取られてベッドに押さえつけられた。

息苦しさでもがくと唇が離れた。

けれど俊平の顔は横にずれただけで、首筋にキスをされる。

「やっ・・・俊平っ!」

「なに?」

「な、なんでっ・・・あっ・・・」

話をしたいのに俊平が首筋を舐めて声が上がる。

自分の声とは思えない甘く甲高い声が。

「はー・・・参った」

「え?」

すると俊平が体を起こし、私の手を掴んで起こしてくれる。

ベッドに座る形になり、首元を押さえた。

「いくら幼馴染とはいっても俺は男なのわかってる?」

「し、知ってる・・・」

「紅茶が好きなのに俺の好きなコーヒーばっか飲んでるし」

「・・・・・・」

「わざとコーヒー取り上げてもコーヒー飲むし」

「・・・・・・」

「間接キスだけじゃ、物足りない」

そう言って落ちてくるキスは、やっぱりコーヒーの味がした。


2017/08/14